日本には多種多様な自動販売機があります。駅に行けば切符の自販機があります。街角には煙草の自販機があります。そして町外れにはエロ本の自販機だってあります。エロ本の自販機については以前にネタにしたので、今回は一般的な飲み物の自販機について。

一口に「飲み物の自販機」と言っても、それだけでも様々な種類があります。最も多いのは缶ジュースの自販機でしょう。最近ではペットボトル入りの飲み物も増えてきましたが、それでも最大勢力は缶入りだと思われます。暖かいものから冷たいものまで、炭酸飲料からおでんまで、多種多様な製品が登場し、そして消えていっています。

缶入りほど多くはなく、そして屋外に設置されている事もそう多くはない紙パック入りの飲み物自販機もあります。個人的には市役所だとか図書館なんかの公共施設でよく見るんですが、これも立派な自販機の一種です。缶入り飲料と違って自販機そのものにギミックが仕掛けられていたりするのも大きなポイントです。例えば、自販機全体が大きな冷蔵庫のようになっているようなタイプです。料金を入れて購入したい商品のボタンを押すと商品受け取り用のトレーが移動を開始し、X軸とY軸を合わせたら無事トレーに商品が収まる。あのわくわくするギミックがまた素晴らしい。「NHKにはピタゴラ装置内蔵の自販機がある」とか言われたら信じてしまいそうです。勿論、商品が取り出し口にたどり着いたらスピーカーからお約束のSEが。

缶入りでも、そしてパック入りでもないジュースの自販機もあります。紙コップで直接飲み物を供給する形式の自販機です。多くの場合はジュースもあるもののコーヒー系をメインにしてある事が多いのではないでしょうか。この種類の自販機の特徴は、ある程度飲み物のカスタマイズができる点です。冷たいジュースであれば氷の有無が選べたり、熱いコーヒーであれば砂糖やミルクの有無なんかが選択できたり。場合によっては複数種類のジュースを混ぜてしまう事だって可能です。オレンジジュースとカルピスを混ぜてオレンジカルピスを作ってみたり、コーラとソーダで炭酸二倍にしてみたり。ただ、これは時としてカオスな代物を生み出してしまうのが難点です。コーラカルピスなんて、色がちょっと食欲をそそらないんですよ。

この紙コップ式自販機。古くから笑いを取るための小道具としても用いられてきました。毎回毎回取り出し口にセットされた紙コップに飲み物を作成していくのですが、そのために紙コップに何らかの不具合が発生してしまうとこちら側は金を払ったのに、そして自販機側は飲み物の原料を消費したにもかかわらず何も提供されないと言う事があります。奥さんが実際に遭遇した例ですと、取り出し口に氷が捨ててあったせいで紙コップが正常に設置できず、結果として飲み物全部がこぼれてしまった事が。なまじ生産工程が直接見えるがために、失敗しているにもかかわらずそれを止める事ができないという、非常にもどかしい事になってしまったそうです。それからしばらく後、漫画だったかテレビだったかで「ジュースを買ったら紙コップがこぼれて全部駄目になった」というネタを見た事で、「なるほど、世の中には同じような被害にあった人がたくさんいるんだなあ」という結論に達したようです。いや、そんなに多いのかな。俺はそんなの未経験だぞ。

未経験ではありますが、「ジュースがうまく紙コップに入らないでやり場の無い憤りを感じる」というのは古典的なネタではあります。確かに私も幾度と無くそのようなネタを見てきました。ですが、実際に遭遇する事はありませんでした。運が良かったのでしょう。しかし、先日購入したコーラには違和感を感じました。仕事場と同じフロアの端っこにこの紙コップ式自販機があるのですが、そこの自販機が変なのです。なんかこう、コーラの気が抜けているような、そういえば氷が全く入っていないような。余所見をしていたので作成過程を見ていなかったのですが、氷が落ちてくる「ガラガラ」という音は聞こえたのです。なのに氷が入っていないというのはどういうことだ。再度試してみたいのですが、しかしその為には数十円の出費が必要となります。「コーラ以外は飲みたくない」とか「コーラ以外の飲み物も同じような現象」とかならともかく、アイスコーヒーは普通に完成品が出てくるのです。わざわざよくわからん失敗作っぽい代物を飲むために無駄遣いをする気にはなりません。という事で、再現実験は「またコーラが飲みたくなった時」に行う事としました。

それから一ヶ月。コーラも飲みたいし、なんか不具合があったんなら修理できただろうし、という事でコーラを購入することにしました。今度はちゃんと取り出し口を監視する事にします。硬貨を投入し、ボタンを押します。さあ、取り出し口でどのようなドラマが繰り広げられるでしょうか。

まず、氷が出てきます。ガラガラっと出てきます。
次に水が出てきます。後から考えると、おそらくこれは炭酸水なのでしょう。
そして、次に紙コップが出てきます。紙コップ。紙コップ?
そして黒っぽい液体。おそらくこれがコーラの原液でしょう。
で、原液が出終わったら終了のブザーが。

紙コップを取り出すまでたっぷり三秒が必要でした。自分が見たのは何かの間違いなのではないか、それとも何か二十一世紀っぽい凄い仕掛けがあるのではないか。結論から言うと間違いではなく仕掛けも無く、私の手に届いたのは生ぬるいコーラ原液、希釈しておらず炭酸も含まれていない甘ったるい液体だけでした。付け加えるならば、希釈していないから容量が少なく、さらに氷も無いのでより一層少なく見える液体です。だいたい紙コップ半分もありません。

人間、予想外の事が目の前で起きると、咄嗟には行動できません。だからこそ、例えば避難訓練だとか救助訓練なんかを行って咄嗟の時に備えるものなのです。ですが、「紙コップが終盤に出てくる」というのは予想外の、さらに外にあるようなものです。「紙コップが倒れた」とか「ジュース類が紙コップの外を狙ってしまった」なんてのは、古典的なネタになるくらいですからある種の予想の範囲内ではあります。「紙コップが出ない」というのはおじちゃんちょっと参ったなあ。

内側からこみ上げる黒い物を抑えながら、「苦情、要望はこちらに」と書いてる備え付けの紙に目の前で発生した事を余すことなく書き連ねておきました。それからさらに一ヶ月。恐る恐るコーラを注文した私の手には、炭酸が含まれて氷も入っている、よく冷えたコーラでした。ここにたどり着くまで二ヶ月と二百円。しかしあれか、私が苦情を書くまで改善されないという事は、ひょっとしてこのフロアでコーラを飲むのは私だけなのか。


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