三十路の声も聞こえてくるようになりました。ほんの数年前までは友人達で集まって鍋でも囲もうとなった場合は、「働かざる者食うべからず」といった具合に各自何らかの作業が割り振られておりました。料理が得意であれば鍋の味付けだったりつまみを拵えたり。料理が苦手なら買出しや送迎だったり。しかし、先日のバーベキューでは「おっさん達が準備するから奥さん達は座ってて」となりました。「子供達の様子でも見てて」となるはずが、参加した子供はうちの息子達だけだったうえに、その子供達は庭先で勝手に遊んで痛んで手持ち無沙汰になったようです。いずれ子供が増えればまた違うんでしょうが、とりあえず今回は男手だけで頑張ってみました。とは言うものの、結構手伝ってもらってたんですけどね。

夜が更けて子供たちと共に一旦帰宅した後、改めて第二部に向けて出撃です。引き続き残っていた友人達と飲み物片手に職場の愚痴だのくだらない話だのと、そのネタは尽きません。さて、こういう時の飲み物と言えば。一般的にはアルコール類です。ビールだったり焼酎だったりワインだったりと、そのコップの中身は千差万別。しかし、何らかの理由で飲まない人間もいます。例えば私は車を運転するので飲めません。飲まないのは私だけではなかったのですが、ではそういう人間が何を飲むのか。

私は炭酸飲料を、特にサイダー系の飲み物を好みます。その時は、他にコーラ大好き人間がいたのでコーラを飲んでいました。別にコーラでもいいんですよ。特にサイダーが大好き、というだけでコーラも好きですから。私も、そしてコーラ好きの友人もコーラで酔える人間ですから。

友人達とひたすら喋る場合、何らかの飲み物が欲しくなります。そしてその中身は加齢と共に変化していきます。子供の頃は麦茶や水でいいでしょうが、学生になればそれがジュースに、そして大人になればアルコールとなります。アルコールもビールや酎ハイに始まり、ワインや日本酒へと変化していく事でしょう。さらに年金を貰う頃にでもなれば緑茶に落ち着くのかもしれません。という事で、我々の年代であれば普通は酒が欲しい、となるのでしょう。

しかし、我々はそれを由としません。酒なんて飲まなくてもいいじゃないか、ジュースでいいじゃないか、と。特に私の場合、酔うと眠たくなるので酒量はある程度で控えたいと考えています。暗黙の了解で飲む事を強要されるような空気は無いので、自分が楽しければ、そして他人を不快にさせなければ問題ありません。それに、ビールよりコーラの方が安いしね。

世間一般と比較して安上がりな我々ですが、そのためやや「ズレている」と感じる事もあります。例えば。世の中の人たちは、友人達と銭湯に行くという事があまり無いそうです。銭湯、気持ちいいじゃないですか。数百円で二時間くらいはいけるんで安上がりじゃないですか。でも、普通の人たちはそうじゃないそうです。それどころか、あらぬ誤解を受ける事にさえなります。

友人田某、同じ職場に勤める友人高某に対して仕事が終わってから風呂に行こうと声をかけたそうです。で、それを聞いた職場の人がニヤニヤしながら話しかけてきたそうです。
「どこの風呂に行くんだ」
「山鹿です」
「山鹿にいい風呂があるのか?」
「?そりゃ、ありますよ」

熊本県山鹿市。熊本県の北部に位置する温泉街です。といった具合に、ここの説明をしようとすると温泉についてか、はたまた夏に行われる「山鹿灯篭祭り」くらいしか書く事がありません。なので、「山鹿」と「温泉」は説明するまでもなく連想できるはずなのです。ですが、先ほどのようなやり取りも成立してしまいます。それは何故か。

一般的に、我々くらいの年齢の男同士で風呂に行くとなると、それは違う「風呂」を意味します。あれですよ。艶っぽい方の風呂。トルコとか泡とかそういう風呂。で、そういう風呂へ行くんだとしたら、山鹿という地域はあまり向いていません。どちらかというとそういう風呂は熊本市内か、はたまたちょっと足を伸ばして福岡の中洲か、となります。先ほどの会話も「(熊本や中洲じゃなくて)山鹿にいい風呂があるのか?」とすると分かりやすくなります。

実際のところ、友人高某はこの連想に気付くまで時間がかかったそうです。だって、俺達にしてみれば風呂って、風呂以外の何でもないし。でも、他人にしてみれば「友人と一緒に風呂に行く」というのは、それはあまり大声では言わない、言えない類のものなのです。それに気付かなかったもので、好奇の目で見られ続けた友人高某は、それから名誉回復に忙しかったそうです。そっちの風呂じゃなくて銭湯、温泉だと。入浴料で何万円とかの店じゃなくて、タオル貸出でも千円でお釣りが来る所だと。最近はようやく「こいつらは友人同士で風呂に行く種族だ」と認識してもらえたそうですが、連れ立って風呂に行く男性ってそんなに珍しいんですかね。


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