子供の世界ではゲームが上手いとヒーローになれます。なれるはずです。対戦ゲームで強いとか、レースゲームで速いとか。一般的に年長者ほど強い傾向があります。判断力や瞬発力に差がありますから。

子供の世界では殆どが同年代との比較。差があっても一歳や二歳くらいのもんでしょう。では、いきなり二十歳くらいの差がある相手だったらどうでしょうか。

連休中に従兄弟の家に遊びに行きました。名目は、子供たちの「お兄ちゃんとポケモンバトルする」という願いをかなえるため。前回訪問時はゲーム類を持っていかなかったために次回持越しとなっていた、従兄弟の長男と我が家の子供たちの勝負です。我が家の子供達は年中と小二。対する相手は小五.五歳から三歳程度の差があります。幼少期におけるこの年齢差は非常に大きく、実際に対戦してみると鎧袖一触といった具合にあっさりと負けてしまいました。

ポケモンとは、そしてその対戦とは。普通の人がポケモンというゲームに対してもっているイメージというと、「ピカチュウがなんか雷を出して攻撃してる」とかそんな感じのものだと思います。まあ間違ってはいません。ルールに従い三匹なり六匹なりを準備して一匹もしくは二匹同時に場に出し、攻撃しあって全員倒せば勝利です。公式大会なんかだと一定のルールがありますが、子供同士でやる分には特にルールは無いでしょう。強いポケモンを出したほうが勝ちとなり易いのが難点ではあります。

しかし、その深淵に触れだすと大変です。このポケモンたち、表面的には「攻撃」とか「素早さ」といった六種類のパラメータと「地面」や「飛行」といったタイプ等の限られたステータスしかありません。しかし、実際にはそのパラメータは数々の数値によって構成されています。
まずポケモンごとに「種族値」という種族ごとの強さを示すステータスがあります。この種族は力が強いけど足が遅い、こっちは全体的にバランスがいい等々。
さらにその種族内での個性をあらわすための「固体値」というステータスがあります。このステータスにより、同じ種族でも力が強いポケモン、力は弱いが足が速いポケモン等の差が生まれます。
さらに、長所を伸ばしたり短所を補ったりする「努力値」というものがあります。足が速いポケモンと闘ってたらこちらの素早さがあがったり、体力が多いポケモンと闘ってたら体力が伸びたり、といった具合に隠しステータスとして存在します。
さらにはこれらのステータスに補正を加える「性格」があります。
勿論、「レベル」を上げればステータスも増加します。一匹のポケモンが習得可能な「技」は四つまでとなっているため、攻撃専門のポケモン、サポート向けのポケモンといった違いも出せます。これらを追求し続けていると、私のように総プレイ時間が九百時間を越えてもまだやり足りなかったりします。

ポケモンを育てるだけでも大変ですが、実際の対戦における戦略にも頭を使います。子供達を見ていると「とにかく威力が高い技」を使用して相手を攻めています。その戦法は基本的には間違っていません。自分がやられるよりも先に相手を倒せばいいんですから。しかし、威力が高い技はなかなか命中しにくかったり、なんらかのデメリットが設けられていたりします。よって、大技を狙うよりもこつこつとダメージを蓄積させたり、逆に大技を使いやすくしたりする必要があります。

また、押しの一手だけではなく搦め手で攻める事も可能です。決定力が無いけれど耐久性に優れたポケモンであれば守りを固める事によって持久戦に持ち込み、自分の有利な場を作り出す事もできます。この辺は前述した「種族値」や、そのポケモンが覚える事が可能な「技」の種類によってある程度は予測可能です。そのため、数多く対戦していればそれだけ有利になれます。プレイヤーの経験値が物を言うわけです。

息子達が負けた後でいよいよ私の番です。下準備に一ヶ月もかけたポケモンたちを率いて全力で勝負です。そう、「子供たちが対戦したいと言ってるから」というのはあくまで建前なのです。大人気ないとか言ってはいけません。なにしろ、勝負を挑んだら「じゃあ、俺が勝ったらそっちの育てたポケモンください」とか言われてますから。寝る間を惜しんだわけではありませんが、主に入浴中に頑張って手塩にかけて育てたポケモンたちです。むざむざと奪われるわけにはいきません。

結果?無事に勝てましたよ。リターンマッチも、そのリターンマッチも、さらにそのリターンマッチも。見事に返り討ちです。次回の再戦を約束したところでその日は終わりましたが、いつの間にやらその子からの私の呼び名が「ポケモンのおじさん」になっていました。まあ実際に叔父みたいなもんだから構わないのですが、対戦前は「お父さんと同じ顔のおじさん」だった事を考えるとなんか微妙に格下げのような気もします。「ゲームが強いと英雄」理論からするとこれは立派に尊敬されているのかもしれませんが、しかしこう、例えば街中で「お父さんに良く似たおじさん」と呼ばれるのと「ポケモンが強いおじさん」と呼ばれるのと、どちらがいいかと聞かれると、ねえ。


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