「パソコンが壊れた。どうにかしてくれ」
たまに電話がかかってくると、8割くらいはこんな用事です。ちなみに、残りの大部分は「今から飲みに行くぞ」といった用事です。それはさておき、工業高専の情報科に在籍していた頃も、そしてプログラマーという職に就いている現在も、「パソコン何でも屋」として扱われることがよくあります。確かに、一般人と比べると扱いに慣れていることは否定しません。普通のご家庭ではわざわざPCを自作したり、ルーターで数珠繋ぎにしたりすることはあまりないことでしょう。いや、実は最近日経新聞なんかで『いま、自作パソコンが熱い』なんて特集があってたりするのかもしれませんが。って、日経で『熱い』はないか。『ナウい』かな。

さて、パソコン何でも屋ことcloud君。たしかに初心者が直面するようなトラブルには対応できます。電源が入らないだの、なんかおかしいだの、こちらも経験してきたようなことであれば、電話で指示をしたり、現在位置と相手との距離によっては直接手を出すこともあります。しかし、それはあくまで「自分でわかる範囲」のことについてです。いくら本職であるとしても、どんなことでもわかるということではありません。

先日、仕事から帰って晩飯を喰らい、ゆっくり風呂にでも入ろうか、というところで携帯に電話がかかってきました。見慣れない番号です。少なくとも九州内からの電話ではありません。きっと間違い電話だろう、どうからかってやろうか、と思いながら電話に出ましたが、電話の相手は私の妹でした。ああ、そうか。大学に合格して引っ越したんだっけ。すっかり忘れてた。で、用事はなんだ。金は貸せないぞ。

「パソコンで動画を見たいんだけど」
へ?動画ですか?なんで?
話を聞くと、その動画とやらを使った講義があり、講義終了後にファイルを貰ってきた、と。で、ファイルを貰ったは良いけどどうやったら再生できるんだろう。よし、兄貴に聞いてみよう、本職だからわかるに違いない、ということだそうです。うーむ、ちょっと時間がかかりそうな話だ。今から風呂に入るから後にしてくれ、と断りを入れ、とりあえず風呂に入ることにしました。すると再び携帯から呼び出しが。着信音が地元の友人専用の音楽です。おいおい、せっかく風呂に入ってるのに、と思いながらも電話に出ることにします。電話の相手は我が友人松某でした。まさか、今から飲もうとでも言うのか。今は実家にいるわけでなし、そもそも明日は平日だぞ。一体どんな用事だろうと思いながら用件を聞くと。
「LANが繋がらないんだが、どうすればいいんだ」
……今日は荒尾人にパソコン関係のトラブルが多発する日のようです。

まだ体を洗っていないので風呂から上がるわけにもいきません。かと言って、風呂の外で素っ裸で応対すると風邪をひきそうです。やむを得ず、風呂の中で体にお湯をかけながら話をすることにします。湯船につかるわけにはいきません。私のことです。そんなことすると、きっと湯船の中に携帯を落として「よっしゃ、ネタができたぞ」と悲しい喜びに浸らなければいけません。
で、LANが繋がらないだと。それはあのへんをどうこう……
20分頑張りました。結局、「よくわからない」ということで更に別の友人に聞いてもらうこととなりました。

手間取ってしまいましたが、まだ妹を待たせています。すっかり冷え切ってしまった体を温め直し、風呂から上がって妹に電話をします。で、どんなファイルなんだ。
「わからないから電話した」
は?わからないって……じゃあ、その教授はどんな風に再生したんだ。
「教授のパソコンはMacだったからわからない」
Macですと?Macって使ったことないぞ、俺。
「じゃ、教授に聞いてみるね。おやすみ」
……それくらい済ませてから電話してきやがれ。こん畜生。

その数日後、妹から再度電話がありました。
「何とかっていうソフトを使って再生するんだって。で、よく分からないんだけど」
どれどれ。これを……こうして……ああやって……
「あれ?そうじゃなくて、ここを云々……」
どうもこちらとあちらで状況が異なっているようです。そもそもダウンロードしたファイルが違うようです。このままじゃ埒があきません。私がダウンロードしたファイルをメールに添付して送ることにしました。

さらに数日後。妹から電話で結果報告がありました。
「私がダウンロードしてたファイルを実行したらうまくいったよ」
あれ。じゃ、俺が送ったファイルは無駄だったのか。……って、ダウンロードしたファイルはうまくいかないんじゃなかったのか。
「実行はしてなかったよ。分からなかったから聞いた」
……その喧嘩、買った。


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