私の住処から車で30分程移動すると、海につきます。駐車場が整備されていないという難点はありますが、ちょっと沖に行って潜ると魚が見つかるような、きれいな海です。いや、私、熊本県荒尾市出身なんですが、そこは有明海に面しているんですよ。諫早湾云々でもめてる。で、私にとっての「海」の基準というのが、その有明海でして。つまり、波が穏やかで、水が濁っている、それが「海」というものだとインプットされているのです。

父方の実家は熊本県の南部にあり、そこも海の近くだったので里帰りの際にはよく海水浴に連れて行かれたものですが、その海も荒尾沖の海とあまり変わらない印象を受けました。そんな海を見慣れていたため、昨年、所用で千葉を訪れた際に九十九里浜に立ち寄った際は凄いショックを受けました。いや、もう、波が荒いんです。「台風でも近付いてきてるのか」と言わんばかりの荒波。しかも、こちらではそれが普通のようで、小さなお子様も躊躇うことなく海に飛び込んでいくのです。あれはショックでした。私にとっての「荒波」が、彼らにとっては「普通」だったのですから。

さて、最近の私が週末に良く訪れる海。こちらは九州北端部の海岸沿いです。東シナ海だか玄海灘だかよく調べてないのでわかりませんが、有明海とは違って外海です。もちろん、私基準で言うところの「荒波」が続きます。ここでもそれが普通みたいです。クーラー嫌いの私にとって、自然の涼を得ることができる海は、非常にありがたい場所です。それに、ほら。目の保養もできるじゃないですか。いや、でも視力0.2の私の場合、裸眼だとぼやけてしまってお腹一杯堪能するというわけにはいかないのですが。ああ、中学3年生当時の俺。何故そんなゲームばっかやってて視力を落としたんだ。

そんなこんなで、また海に行ってきました。今回は新兵器「シュノーケル」を準備しています。これを使ってお魚さんと戯れる予定です。さかなさかなさかなーっと。しかし。到着と共に若干の後悔が私を襲います。満潮3分前。いつもは干潮の時刻前後に訪れていたため気付かなかったのですが、非常に波が荒い。砂浜近くの岩場が、影も形もありません。でも、まあ、シュノーケル様もいるし、大丈夫だよな。と、海に突撃していきます。無論、その前、眼鏡を外す前に水着のお嬢様方を鑑賞したことは言うまでもありません。

さあ、堪能したところで海に向かいましょう。いつもの岩場が水没しているために足場が不安定になっていますが、まだ歩いて行動できる深さです。ゴーグルをはめ、呼吸用の管を口にくわえて潜ってみます。
……うわ、波が荒いなぁ。しかし、どんなに潜っててもこのシュノーケル様がある限り、呼吸の心配は不必要。さあ、シュノーケル様、お恵みを、と、息を吸います。
……吸えねぇ。
いや、吸う努力はしてるんですが、なんか真空状態みたいになってます。あ、やばい。中途半端にしか空気を吸わずに潜ったため、既に酸欠状態です。しかも荒波にもまれて体力を消耗しています。さらに、ゴーグルのはめ方が甘かったのか、水が入ってきています。あ、ヤバイ。とりあえず岩の上に立って呼吸をしよう。と思い懸命に岸に向かって泳ぎ出します。しかし、来る途中が岩場だったため、サンダル履きです。全然進みません。なんとか水面に顔を出して呼吸をしようとしますが、なかなかできません。このあたりで、「22歳会社員の海難事故」という嫌な新聞の見出しが頭をよぎります。ゴーグルとシュノーケルの完全装備で溺れちゃ笑い話にもなりません。しかも、ここは岸からわずか5メートル。干潮時は「波打ち際」」でしかありません。まだ走馬灯は回っていませんし、「あそこに隠しているエッチな本が見つかるとヤバイ」なんて事も思いつきませんでしたが、新聞の見出しだけで充分です。死に物狂いで岩の上に立ち呼吸を整えます。助かった……と思ったその時。後ろからの波で再度水没。勘弁してくれー、と思いました。その後しばらく波に揉まれ、命からがら岸にたどり着いたときは、もうふらふらでした。ふらふらですが、助かった事に対しては神に感謝を捧げました。信仰心は全くありませんが。

充分すぎるほどの休憩を取った後、ちょっと浅めのところでシュノーケルを使った呼吸の練習を行いました。初めて知ったんですが、シュノーケルって普通に呼吸をしないと息が吸えないんですね。思いっきり深呼吸をするように息を吸い込むと、内部が真空状態みたいになるようです。いやはや、何事もぶっつけ本番はよくありませんな。特に今回は、ここでネタにできるからよかったものの、最悪の場合はネタどころじゃないことになったわけですから。もっとも、シュノーケルの練習後に調子に乗って岸から10メートルほどのところで波に流されて再度死に物狂いになったりしたのですが、それはまた別の話。


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