先日、実家の「建ち家」がありました。耳慣れない言葉である「建ち家」。「たちいえ」と読みますが、そもそもこう書くのかどうかも分かりません。耳から聞きはしますが、文字として見た事がありませんから。また、業界用語なのか、それとも方言なのかも分かりません。「建ち家」って、検索してみると「建っている家。たてや。」って出ます。それじゃ意味が違うんだよな。一般的な言葉に直すと「棟上げ」となります。家を建てる際、地鎮祭を行い基礎工事が終わったところで、柱を建てて屋根を被せる。地方によってはその後で餅投げなんかも行われるアレです。少なくとも私の中では、餅投げまでの一連の出来事が「たちいえ」として認識されています。

さかのぼる事五年。「年内に引っ越す」がいつの間にやら五年。頑張って考えた間取りも白紙撤回どころか二転三転、七転八倒。ひょっとしたら細部はいまだに調整中かもしれませんが、それでも少なくとも大枠は決まりです。様々なスケジュールの都合上、六月までの完成が譲れない状況となり、そこから逆算された日程によって今回の建ち家が決まりました。んで、お前もあれこれ手伝えという父からの要請が。

言われなくとも手伝う予定でした。その理由が餅投げです。現在我々は都市部にすんでいます。近隣の住居はほとんどが集合住宅。地鎮祭くらいは見かけるものの、餅投げなんて全く見かけません。そんな、餅投げを知らずに育った息子たちに、餅投げというものを体験してもらいたい、というのが表向きの理由です。私が小学生くらいの時は父に「今度どこそこで餅投げがある」と知らされ、そこで餅を拾って数日はぜんざい、というのがよくありました。今の我が家ではぜんざいを作ったところで食べるのは私くらいなもんですが、それでも餅投げというイベントを、そして餅拾いというイベントを経験してほしい。きっといい思い出になるはずです。

本音はというと、「俺が餅を投げたい」というその一点です。甲斐性無しなんで自分で家を建てる見込みはありませんが、屋根に上って餅は投げてみたい。自分で建てないならば親兄弟が建てる時くらいしか機会はない。さすがに父もさらにあと一軒建てる事はないでしょうから、そう考えるとこれが最初で最後のチャンス。昔、大声で「こっちにも餅を投げてー!」と叫んだもんですが、それを叫ばれる立場になってみたい。餅を投げるためならば、多少の下働きはやってやろうじゃないか。そう思い前日夜から実家に移動し、建ち家本番を迎える事になりました。

甘かった。うちの親父、自分の息子は大工に転職したとでも勘違いしてるんじゃなかろうかと思うくらい甘かった。父としては「多少の下働き」として指示してるのかもしれませんが、二階の屋根くらいの高さで足場や支柱に体重を預けながら材木を運んだりするのは、プログラマーがやるお仕事ではあまりありません。しかもそんだけ頑張ったのに結局餅投げは悪天候のため中止です。餅もお菓子も準備してたのに。餅投げのイメージトレーニングも完璧だったのに。

投げる方はガッカリですが、投げられる方もガッカリだったようです。夕方頃、お向かいの家にいた小学生くらいの男の子が大声で「餅投げはいつからですかー」と聞いてきました。そういや昼過ぎくらいからこっちの方を見てたなあ。ずっと待ってたのかな、悪いなあと思いながら、雨天中止である事、餅投げはないけど準備はしてたから餅配りはやるよ、よかったらおいで、と伝えたところ。大声を出した男の子と、妹らしき子がこちらにやってきました。ちょっと遅れて兄くらいの子が二人やってきました。さらには彼らの友達らしき集団が五名くらいどどっとやってきました。みんな待ってたのか。

押し寄せた近所の子供たちに餅やお菓子を配り、そしてご近所さんにも挨拶ついでに餅や饅頭を配り。それで建ち家無事終了です。結局うちの子供たち、そして親戚の子供たちは実家で待機したまま。予定通りなら昼過ぎに迎えに行き、そのまま餅投げのはずだったのですが、子供たちだけでずっとゲームして終わってしまいました。餅投げも、餅拾いも未経験のまま終了です。子供たちに餅投げの感想を聞いたら「炬燵でゲームしてた」で終わってしまいます。

それにしてもなあ。餅投げたかったなあ。こう、屋根に登ってさ、ぶわあっと。遠くに投げると見せかけて近くの子供に投げるとかさ。そういうあれこれをやりたかったんだよ。なんでまた当日だけ悪天候かな。前日も翌日もいいお天気だったのに。


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