今でもそうなのですが、学生時代の私は身体が固い人陣営に属していました。立位体前屈と呼ばれる、身体を前に倒して足からどれくらい下まで指先が届くかを測定する際も、
・思いっきり勢いを付けてごまかす
・思いっきり勢いを付けて何回も前に身体を倒してたらいつの間にか膝が微妙に屈伸状態
・思いっきり勢いを付けて、さらに膝は微妙に屈伸状態で、なおかつ左手指先に全てを託してやや全身が捻られた状態
そこまで頑張って、ようやく爪先に指が届くかどうか、といった具合。難儀なものです。

柔軟体操の類も同様です。床にペタンと腰を下ろし、足をそろえて前に出し、足を揃えたままその爪先目掛けて前に倒れる。ええ、勿論できません。重力の力を借りても苦労するのですから。特に私の場合、極度のO脚ですので、どんなに頑張って足を揃えてもいつの間にか膝関節が外を向くことになります。んで、結果的に膝が曲がることでようやく爪先に軽く指が触れる事に。

しかし、不思議な事に昔から唯一得意な柔軟運動がありました。胡坐をかくような体勢で、足の裏を股の前で合わせる。そのまま、膝とかかとを床につけたままで前に倒れ、頭を床につける。股関節の柔軟運動ですが、これに限っては昔から何の苦労もなくやってのける事ができました。体育の時間など、簡単に前屈できる友人達がこの体操には苦労しているのを見て不思議に思ったものです。

妻の話を聞くと、長男も身体が固いそうです。幼稚園の保育参観日、体育の授業で柔軟体操をやってたそうですが、長男だけ前屈ができなかったとか。でも、股関節の柔軟運動は普通にできたそうで。こりゃあれか、遺伝か、と思ったものですが、どうも本当に遺伝だったようです。

年末に実家に戻った際、嫁と姑の茶飲み話の中でそんな話題になりました。その際、母から「私も前屈ができなかったし、股関節は柔軟だ」という話が出ました。還暦をとっくに過ぎた祖父母に柔軟体操をさせるわけにはいかないのでそれ以上さかのぼる事はできませんが、少なくとも親子三代で「基本的に身体は固いけど股関節限定で自由自在」という難儀な体質だと分かりました。もっとも、身体の固さでは母が最も酷いようで。話を聞くと、「背もたれがなければ足を伸ばして床に座れない」そうです。座椅子なり、クッションなりで支えないと後ろに倒れるそうで。確かに、思い返せば物心付いた頃から炬燵に母が座る際には、座椅子だったりソファーだったりと何らかの背もたれがありました。母曰く、「普通に床に座れる人が羨ましかった」そうで。さすがに私も、そして長男もそこまで身体は固くありません。

それらの話の影響もあるのでしょうか。年が明けて自宅に戻ってきた妻が、「柔軟運動をする」と決意しました。この奥さんも柔軟とかそういうあれは駄目な人陣営の一員でして、そして柔軟運動以前に「腹筋運動ができない」という弱点も兼ね備えています。本人は「子供の頃は腹筋運動も三回くらいはできた」と胸を張って言いますが、今は今、昔は昔。寝転んだ体勢から腹筋のみで起き上がろうとすると、三十度ほど上半身が動いただけでギブアップする人間が言っても説得力は皆無です。その辺を茶化してみたところ、「腹筋も鍛える」と言いました。頑張って、せめて三回くらいはできるようになってもらいたいものです。

横から見ている私も、あまり他人のことは言えません。年末年始にかけて、猛烈に身体の各所が「つる」事が多かったのです。
・背中が痒いので右手を伸ばしたら、右の脇がつる
・仕事中、軽いストレッチとして頭を回して首の体操をしたら、首のあたりがつる
・子供と遊んでいる最中、子供を持ち上げたら腕がつる
ろくに動けません。力を入れたら、筋を伸ばしたら、何かにぶつかったら。その程度の刺激で痛みが広がり、しばらく行動に難儀することになります。「運転中に背中が痒くなる」なんて想像したくもありません。どうやらこの症状も母譲りのようで。なので、少しでも改善の助けになるのではないかと、妻と一緒に柔軟運動をする事にしました。

まずは、お互い背中合わせで立ち、腕を絡ませてから相手を担ぎ上げます。やけに背骨の一部が痛いのですが、気にしないことにします。大丈夫。ちょっと具合が悪いだけさ。未だに違和感があるけど。そして次は、お互い背中合わせで立ち、腕を真っ直ぐ上にあげ、その手を持って背中に担ぎ上げます。先程と似たような体勢ですが、上半身がさらに刺激されます。では、まずこちらから担ぎましょう。よいし「いたたたた」。

悲鳴が上がります。さっきとそれほど違わない運動なのに大袈裟です。まったく、日頃の運動不足を反省したまえ。仕方がないので役割交代。今度は私が担がれます。手を上にのばして、ぐいっと後ろに倒さ「ぬおおおおお」。

悲鳴です。深夜十二時を回って、どうした事かと言わんばかりの悲鳴です。いやね、なんか痛みが違うのよ。こう、脇が全部持っていかれるような痛み。悲鳴の大きさから判定すると、運動不足を反省するのは私のようです。よし、これからは毎日柔軟運動をしよう、と夫婦で決意したわけですが……
腹回りのダブつきが気になって毎晩腹筋運動を行うことを決意したのはいつだったのだろうかと思いながら、今日も運動せずに就寝することでしょう。


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