ベタな笑いが取れる展開になったとき、人はそれを「ドリフ」という言葉で表現します。いや、私だけかもしれませんが、そういう事にしてください。例えば上から「たらい」落ちて来て頭に当たった場合、「まるでドリフだ」という言葉で全てを表す事ができます。未だに「たらいが空から降ってくる」という場面に遭遇した事はありませんが。「それはドリフではない」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私の中ではこれこそがドリフなのです。世界のおよそ六割はドリフで構成されているという帝国データバンクの調査結果もあります。

二十一世紀になった実感が未だにありませんが、それでも暦の上では未来世界です。私の息子達も二十一世紀生まれです。とは関係ありそうでなさそうですが、最近は文明の利器である「ウォシュレット様」に頼る事が多くなっています。特に、腹具合が悪い時なんかは非常に頼りになる存在です。酒を飲んだ翌日あたりはほぼ確実に下り気味ですので、そんな日は朝からずっとお世話になりっぱなしです。

さて、先日は酒は飲んでいないものの、寝る前に食べたアイスが悪かったのか、夜中から頻繁にトイレに通うはめになりました。自宅の便器にはウォシュレット様はいらっしゃらないので、丁寧に紙で拭かないと痒くなってしまいます。かと言って、あまり丁寧に拭きすぎると今度は「痒い」が「痛い」になってしまいます。難しいものです。

自宅ではある程度妥協して「ちと痒いかも」程度で我慢していましたが、仕事場にはウォシュレット様がいらっしゃいます。そんなわけで、まずは朝一のトイレタイム。そしてその後の洗浄タイム。痒くならず、それでいて痛くもならない。さすがは未来世界。ありがたい事です。

などと馬鹿なことを考えていたら、それから二時間ほど後に再度波が襲ってきました。ああ、ウォシュレット様、お助けを。と祈りながら、再度トイレに駆け込みました。で、無事に波をやりすごし、ウォシュレット様の出番です。丁寧に洗ってもらい、最後は紙で一拭き。それで出来上がり、のはずでした。

ウォシュレット様の反乱です。ボタンを押しても止まりません。とりあえず水量を少なくしてみましたが、これだけでは止まりません。「止まる」ボタンは先程から何度も押しているのですが、ウォシュレット様は聞く耳を持たないようです。

ドリフです。「ウォシュレットで洗っていたら水が止まらなくなっちゃった」なんて、そんなベタな話はそうそうありません。だんだん尻が痛くなってきたので水量を最小にして誤魔化すとして、さてこの状況からどうやって脱出すればいいでしょうか。

まず、最善の手段は水を止める事です。が、停止ボタンは動作しない。緊急停止ボタンみたいなものも見つからないとなると、別の手段を考えなければなりません。
では、素早く立ち上がって蓋を閉めればどうか。
無難な選択かもしれませんが、床が濡れてしまいます。できれば避けたい方法です。
大声で助けを呼んではどうか。
呼ばれた方も困るでしょう。「ウォシュレットが止まらない」と個室の中から叫ばれても、「お尻が綺麗になっていいですね」なんて返すしかありません。

しこたま悩みながら狭い個室の中を見回すと、背後にあるものが見えました。便座から延びる電源コード、そしてそれが差し込まれたコンセントです。そうか、これを引っこ抜けば水も止まるに違いない。まさしく、「志村、うしろうしろ」な状態でした。

便座に座りながらも懸命に後ろに手を伸ばす。傍から見ると間抜けそのものですが、本人は必死です。これ以上は尻が耐えられません。頑張って腕を伸ばしてなんとかコンセントからコードを外すと、ようやく私の肛門に平和が訪れました。長い闘いでした。

この後で「コンセントにコードを差しなおしたら私の顔面にウォシュレット直撃」なんて事があればおいしかったんですが、さすがにそれはありませんでした。何事も無かったかのように眠りにつくウォシュレット様。触らぬ神に祟り無しとばかりに動作確認もせずに逃げる私。翌日に再度お世話になった際には問題が無かったところをみると、あれはウォシュレット様の気まぐれか何かだったんでしょうか。それにしても、貴重な体験でした。


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