連休中に実家に帰ってました。商品券があったので地元のデパートに行ってみたのですが、まあ凄い惨状。連休初日、週末、天候もさほど問題なしという条件下でありながら、売り場には客よりも店員の方が多い状況です。三池炭鉱によって栄華を極めたものの、閉山と共にどんどん没落しているようです。

さて、そんな話題から切り替わって飲み会の話。相も変わらず付き合いのある友人林某と友人高某の二名と共に酒を飲んできました。共に地元の公務員ということで、地域振興というお題も他人事ではありません。特に友人林某は税務課ということで仕事に直結した話題です。とはいえ、「住宅地造成に関して」とか「企業誘致に関して」という我々の手に余るような話題はありませんでした。その日の話題は「荒尾競馬場の売り出し方」についてです。

熊本県荒尾市にある荒尾競馬場。日本最南端に位置する競馬場です。有明海を望む位置にある風光明媚な競馬場、という案内をどこぞで聞いた気がします。現状はというと、まあ大部分の地方競馬がそうであるようにジリ貧です。閉鎖も視野に入れてあるようですが、ただの競馬好きとしては何とか生き残ってもらいたいところ。しかし、こちらも炭鉱閉山の影響を受けており、他の地方競馬場と連携してなんとか生き残っているようです。

地方競馬の売り出し方として最近脚光をあびたのは、ご存知「ハルウララ」が所属する高知競馬です。「全然勝てない馬がいる」という、ある意味競馬の意義とは対極に位置する馬を見事に全国展開できた、その手腕は見事なものです。地方出身で全国規模というと、平成初期に笠松より出てきたオグリキャップですとか、数年前に「リストラの星」という名をもらって日本記録である二十九連勝を達成したドージマファイターなど、「強さ」を売りにした馬がほとんどでした。もちろん、強いだけでは駄目です。華が必要です。「中央競馬では芽が出なかったけど、地方競馬で頑張ってます」だとか、「地方の馬が中央に殴りこみ」だとか、そういうバックストーリーも必要でした。で、ハルウララがどうかというと、売り出し方もストーリーも単純明快。
「弱い」。
身も蓋も無いか。
「勝てない」。
そりゃ一緒だ。
「頑張ってます」
これです。

負けても負けても、今日も健気に頑張ります。そういう物語を作られて売り出されています。馬券が当たらない事から、「馬券を持ってると交通事故に遭わない」なんて別ルートの売り出し方もされています。日本人、こういうのが大好きです。数年前、台風に耐えたリンゴを「落ちないリンゴ」として受験生に売りつけた事が思い出されます。

なんだかんだ言いながら、一頭のスターが出ると地方競馬としては一息つけます。邪道だろうがなんだろうが、集客や売上には代えられません。という事で、我らが荒尾競馬場も一頭、スター候補を売り出し始めました。

「キサスキサスキサス」という馬がいます。脚が弱く、中央競馬も、北海道でも使い物にならないと言われて荒尾に流れ着いた、そんな馬です。でも、荒尾でじっくり脚を治し、現在破竹の二十四連勝中だそうです。この辺り、数年前のドージマファイターと被るものがあります。連敗中のハルウララの丁度対極に、連勝中の馬を持ってくるというのはなかなか面白い構図です。ただ、現在休養中という辺り、勇み足のようにも感じられます。まあ、仕方ありません。帰ってくる頃にハルウララが負けつづけている、もしくは走りつづけている保証はありませんから。

しかし、正直言ってキサスの売り出しは大変なのではないかと思うのです。単純に考えてください。負けつづければいいハルウララと、勝ちつづけなければいけないキサスキサスキサス。どちらが大変でしょうか。「金以外はビリと一緒」なんて言葉がありますが、「金以外」を取らなければいけないハルウララと「金」を取らなければいけないキサスキサスキサス。関係者の心労は大変なものでしょう。しかも、ハルウララの場合、仮に勝ったとしても「やっと勝てたねおめでとう」という事でそれなりに話題になります。かたや、キサスキサスキサス、うっかり次走で鼻差の二着なんか取った日には、瞬時に「ただの馬」に逆戻りです。日本記録ですらない二十四連勝、日陰の立場の地方競馬、誰も見向きをしなくなります。同じ荒尾競馬所属でも、ハルウララの実妹で絶賛連敗中のミツイシフラワーを売り出す方が楽だった事でしょう。残念ながら高知競馬に移籍するということですが、まず間違いなく姉妹揃って負けつづけの日々を送ることでしょう。

「リストラの星」の先輩であるドージマファイターにどこまで迫る事ができるかはわかりません。新記録を作る事ができればいいのですが、期待しすぎる事もよくありません。関係者としては、むしろ今のままじらしつづける方がいいとすら考えているかもしれません。「二十四連勝で止まった馬」よりは「二十五連勝するかもしれない馬」の方がいいですからね。どちらにせよ、これで荒尾競馬が脚光を浴びる事は悪い事ではありません。ですが、もちろん、後が続く事が大切です。

キサスの先輩ことドージマファイター。「リストラの星」というあだ名でニュースにもなったドージマファイター。彼の活躍で、所属する足利競馬にも恩恵はあったことでしょう。彼が二十九連勝という新記録を達成したのは2000/11/19の事。しかし、それから二年半後の2003/03/03、足利競馬場は廃止となっています。「ドージマファイター」で検索しても、連勝中の話や「あんな馬もいたねぇ」という話は出てくるのですが、「どこそこの牧場にいます」なんて話が出てきません。マスコミを賑わせた馬ですら、ひょっとしたら昨夜あなたが酒の肴に食べたニューコンビーフの一部になっていたのかもしれません。願わくば、私の検索不足でありますように。


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