『若気の至り』という言葉があります。「若さにまかせて無分別な行動をしてしまうこと。また、その結果」という意味だそうですが、要約すれば「俺も昔はヤンチャだったよ」という事でしょう。何も、それが悪いと言っているわけではありません。本人達は結構真面目にやっていて、後で思い出すと「ああ恥ずかしい」という結果になる場合もあります。「子供の頃の夢は『パイロットになる』だった」というのも、極論すれば若気の至りという言葉で片付けられるでしょう。いや、これはあくまで一般論でして。私の子供の頃の夢ってーと「長生きする」とかでしたな。

中学生の頃からなのでかれこれ10年ほどの付き合いになる我が友人松某。彼の中学生、高校生時代は何故か、「サッカー部の人間に嫌われる」という事が続いていました。ちょっと事情を説明しますが、我々の中学校では私の通っていた小学校と、友人松某の通っていた小学校の2校の卒業生が通っており、サッカー部員は全員私と同じ小学校の面々でした。また、高校のサッカー部には、私たちの中学校の関係者は一人もおらず、過去の因縁を知る人間もいませんでした。つまり、中学校のサッカー部と高校のサッカー部は、全て違うメンバーで構成されています。しかし、それでも「サッカー部の人間」にだけ目の敵にされていたようです。とは言え、全てのサッカー部の人間に嫌われているというわけではありません。私だって元サッカー部員です。彼とは非常に親しくやっています。しかし、それは少数派のようで、彼がいままでの人生で知り合った「サッカー部員」の大多数には嫌われているようです。

私は他人の人間関係に無頓着でして、現在でも仕事場の人間関係の大部分を「へぇ、そうなんですか」の一言で片付けています。一緒に仕事している人から「誰それと誰それは仲が悪いよ。だって、さっきの打ち合わせでも変だっただろ」と言われても、「そうですか?気付きませんでした」と言ってのけるくらいです。無論、中学生の頃も友人がどのへんから攻撃されているかなんてことには全然気付いていませんでした。で、これで友人松某が打たれ弱い性格であれば「ああ、なんで僕は気付いてあげられなかったんだ、ごめんよ」という事になりますが、私の友人である以上そのようなわけはないわけでして。

後日、と言ってもごく最近聞いたのですが、友人松某は中学校の修学旅行の際、宿泊先でサッカー部の面々に呼び出しをうけたらしいのです。呼び出しです。「お前ちょっと来いや」というあれです。「放課後体育館の裏で待ってます」だとらぶこめになります。でも、らぶこめでも「ちょっと来いや」はあるなぁ。いや、勿論愛の告白であるはずもなく、サッカー部の面々はトイレに呼び出してギッタンギッタンのメッタンメッタン((c)ジャイアン)にしようと計画していたようです。友人松某、大ピンチ……かと思いきや。

「なんか、便所に呼び出されたんだよ」
おおおお、漫画チックですな。
「でな、『お前、むかつくんだよ』って言われたんだ」
わははは、まさに『若気の至り』ですな。で、どうしたん?
「『どこがむかつくんだ?』って言い返したら黙って考え込んじゃってな」
ほうほう。
「『思い浮かばないなら帰るぞ』って部屋に帰った」
そんだけ?
「そんだけ」
うわぁ、馬鹿みたい。まあ、あれだ。同じサッカー部に所属してた者としてちょっと謝るけど、それ以上に恥ずかしいです、私。
「だろうなぁ」

まあ、その後も友人松某は目の敵にされていたようで、成人式後の同窓会でも露骨に無視されておりました。しかしなぁ、そのくらいの歳になると『若気の至り』とは言えないんだけどなぁ。まあ、私も彼らにばかり構っていられるほど暇なわけでもないので、旧友と話したり、お姉ちゃん達と話したり、膝枕してもらったりといろいろやっておりました。が、彼らとしては「同じサッカー部だったし、同じ小学校だったから俺達の味方だ」と認識してくれているようで、そのような視線や合図を送ってくれたりもしました。「あのね、おっちゃん、ワシらもええ歳なんやから、そんな子供みたいな真似はやめとき」と説教しようかとも思いましたが、面倒だったんでそのまんまにしておきました。彼らはこの『若気の至り』にいつ気付くのかなぁ、と思いながら。

先日、会社帰りに駅のトイレに立ち寄った際、高校生らしき4人の汗臭い野郎共が男子トイレの一つの個室の中に入っていくのを目撃しました。中で何が行われているのかはわかりません。煙草を吸っているのか、もっとヤバイ物を吸っているのか、それとも裸で突きあっているのか。みんな仲がよさそうだったので「ちょっと来いや」ではなさそうですが、そんな事を考えてたら昔の事を思い出してしまいました。彼らもいつの日か、『若気の至りで駅のトイレの個室にみんなで入ってました』という日が来るのでしょうか。そんな事を考えながら「あ、連れウンコかもしれんなぁ」と、若気の至りで駄文を書き散らすサラリーマンは思うのでした。


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