学生時代の一時期、コンビニでバイトをしていたことがありました。バイトと言っても、諸事情あって3ヶ月間しかできませんでした。単位落としかけたとかそういう事情です。が、短い間とはいえ色々と面白いものも見ることができました。

コンビニの一角には様々な読み物が並んでいます。新聞一つとっても、朝刊、夕刊、スポーツ新聞等々、様々な種類のものが並んでいます。また、置いてあるのは新聞だけではありません。週刊誌や月刊誌、単行本、文庫本なども置いてあります。新聞と違ってこれらの書籍類は立ち読みできるところが殆どです。一部店舗ではビニールに包まれていたり、紐で縛ってあったりしますが、大部分の店舗ではそのまま置いてあるのではないでしょうか。私がバイトしていた店では、全ての本が立ち読み可能でした。もう全ての本が読み放題。そう。全ての本なんです。漫画週刊誌やファッション関係のご本だけではなく、あんな本やこんな本、要はエロ本の類も見放題でした。

現在では成年雑誌の類は包装されたりして、簡単には見ることができないようになっている店が多くなっているのではないかと思います。また、「未成年の人は読まないでね」といった注意書きもあると思います。けちけちすんなよ……あ、いや、別に心の叫びとかそういうものではなく。えへへ。ごほん。そんな具合に現在では始めから対策をとっていることと思いますが、ほんの数年前まで野放しだったと思います。私がバイトしていたのはちょうど夏休みの時期だったのですが、ある日、中学生頃と思われる少年がやって来ました。少年は脇目も振らずにある場所へと進んでいきました。そう、エロ本の棚です。

まあ、建前では「18歳未満にそういう本は売っちゃいけません」と言わなければいけない立場です。ですが、彼はおそらく物凄く緊張しながらこの店にやってきたのでしょう。時間帯が物語っています。午前2時。丑三つ時です。家人が寝静まり、周囲の家からも電気が消え、さらに用心のためにしばらく待ってから、こっそりと家を抜け出して来たに違いありません。わざわざ本棚の方を覗き込むような無粋な真似はしませんでしたので詳細は不明ですが、どの本にしようかと散々迷った事でしょう。あの本にしようか、いやいやこっちも捨てがたい。そんな具合に吟味を重ねていたはずです。

彼の気持ちはよくわかります。きっと世の中の男性の8割以上は、同意してくれるのではないでしょうか。生まれて初めてエロ本を買うときのあの緊張感。
「早くしないと知り合いに見つかってしまうんじゃないだろうか」
と思いながらも
「外れを引き当てたくないから、じっくり選びたいな」
と思い、いざこれを買おうと思っても
「レジの人に何か言われるんじゃないだろうか」
と躊躇してしまう。実際にはそんなに緊張しなくてもいいわけですし、慣れてきたらそれこそ普通の本と同じ感覚で購入したりしてしまうんですけどね。

さて、レジでのんびりと待っていましたが、彼は数十分後に2冊の本を持って来ました。凄く緊張していたのでしょう。一刻も早く帰って事を果たしたいはずです。気に食わない相手であればここでわざと手間取ってみるのも面白かったかもしれません。わざとトイレの掃除をしているとか、わざとお釣り用の硬貨を切らしておくとか、わざとビニール袋を取るときに手間取ってみるとか。しかし、その時の私は彼の勇気に感動していました。手際よく会計を済ませ、そして手際よく商品をビニール袋に入れてあげました。さすがに、立ち去っていく背中に向かって「頑張ってください」とか声をかけたりはしませんでした。それはさすがに失礼でしょうし。でも、会計の最中、常に笑いを堪えていたのは充分失礼だったかもしれません。

きっと、彼は帰宅してから猿になった事でしょう。もしくは「俺の右手が真っ赤に萌える」とか。私のバイト期間中に彼が再訪する事はありませんでしたが、夏休みはあの時の2冊で乗り切ったのでしょうか。それとも、自前の2冊を元手に友人達と交換したりしていたのでしょうか。今でこそ達観してそんな事言ってたりもしますが、きっと数年前は私も同じような事言われてたんだろうなぁ。


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