これは、「クリスマス雑文祭」の参加作品であり、私が初めて書いた雑文です。
当時は自分のサイトがなかったため、主催者のあいばまことさんに手伝っていただき、場所をお借りして公開していました。
この度、自サイト開設に伴いこちらで改めて公開します。
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クリスマス雑文祭避難場所

目を覚ますと、一時間十分寝過ごしていたのかと勘違いしてしまった。 もし今日が平日であったら遅刻のいいわけを考えなければいけないところであった。 幸いなことに今日は土曜日である。週休二日制というありがたい制度のおかげでこんな時間でも惰眠をむさぼる事ができる。 だが、柔らかな陽射しに包まれたさわやかな朝……というわけではないようだ。 今の季節は冬であり、冬だから当然寒い。外は曇っているようで陽射しなんてものもない。

しかし、寒いとはいっても現在私がいるこの場所は天国である。 冬の幸せ。私にとっては二種類あるのだが、一つはコタツでうたた寝。そしてもう一つは朝の二度寝である。寝てばっかりか。 今朝もその幸せに包まれていたいのだが、そういうわけにもいかないようである。 そもそも、「目を覚ますと」ではない。「叩き起こされると」であった。 どうやら彼はしばらく前から私を起こそうとしていたようだが、とうとう実力行使に出たようだ。

私の会社が休みであるのと同様に、彼の幼稚園も休みである。 平日の朝はいつも私に起こされる彼も、週末となると朝早くから起きてテレビを見ている。 いつもの週末であれば、まだこの時間帯は彼一人で遊んでいるはずだった。 最近ビデオの使い方を覚えてきたようで、ついさっき見たばかりのテレビを繰り返し見ている頃だ。さすがに録画はできないので前日にタイマー予約をしているのだが、巻き戻しと再生の方法は完全に覚えてしまった。 3回ほど見返す頃になると空腹を訴えながら私か、私の横で寝ている彼女を起こしにやって来るのだが、それまではゆっくり眠っていられるはずだった。 そう、いつもと同じならば。

私を叩き起こした彼は、さらに私をベッドから引きずり出そうとしている。 彼の手によって、私を包んでいた布団や毛布はすでにベッドの下へと落とされている。 頼むからもう少し寝かせてくれ、という私のささやかな願いも聞き届けてはもらえないようだ。 もう待てない、1分でも、1秒でも早く私を起こそうとばかりに、髪を引っ張ったり耳元で大声を出したりと様々な手段で攻めてくる。 最近残業が続いており、昨日も深夜に帰宅した私としてはせめてもうしばらく寝ていたい。 無理やりにでも寝てしまおうかとも思ったが、これ以上続くと枕もとの目覚し時計で頭を叩かれる恐れがある。過去に何度も叩かれているのだ。 仕方ない。物凄く不機嫌そうな顔をしながら起き上がる。 私が起きたので彼はすごく嬉しそうだ。飛び跳ねて喜んでいる。さっきまでは彼の方が不機嫌だったのだが。

たしかに、彼の気持ちもなんとなくわかる。なにしろ1ヶ月も前からの約束なのだ。 彼との約束。それは別にたいした事ではない。クリスマスプレゼントを買いに行くことである。 すぐにでも出発しようとする彼に、せめて朝食ぐらいは食べさせてくれと頼む。 彼は待ちきれないといった様子ではあるが、何とか納得してもらい一緒に朝食をとることにする。 本当は3人で食べようかとも思ったが、彼女はもう少し寝ていたいようだ。私と一緒に寝ていたので彼の大声は聞こえているはずなのだが、それでも睡魔の方が強いようだ。たいしたものである。 どちらにせよ、今日の約束は私と彼だけのものだ。彼女はゆっくり寝てもらっていてもかまわない。

それにしても、私の子供の頃は、クリスマスプレゼントはサンタクロースが持ってくるものだったはずなのだが。いつから親が手渡しするようになったのであろうか。 もっとも、サンタクロースも相当な歳である。引退していても不思議ではないだろう。引退するならするで、一言連絡がほしいのだが。 もしや、連絡ができない事情があるのではないだろうか。どこぞの組織に監禁されているとか。 それで、どこぞの少年がサンタクロースを救出する旅に出るのだ。 少年は、旅の途中で様々な人と出会い、別れ、そしてちょっとした恋なんかも経験しながら無事サンタを救出するのだ。 その物語は映画化され、「全米No.1の超大作」なんていわれながら日本でも上映されるのだ。 ……などと、もたもた着替えながら馬鹿なことを考えていると、背後から飛び蹴りをくらってしまった。 食事中からそうだったが、これ以上彼を待たせると何をされるか分かったものではない。手早く着替えて出発することにする。

玩具売り場にはすでにたくさんの子供たちがいた。その子供たちに引きずられるようにしてついて行く大人たちも。どの子も目を輝かせながら目当ての玩具にむかっている。 昔は私も引きずる側だったのだが、月日のたつのは早い。 今引きずっている君たちもすぐに引きずられる側になるんだよ、などと考えていると何時の間にか彼がいなくなっていた。 ここまで来たら私が何をやっていようと関係ないようで、一人で先に進んでしまったようだ。 蹴られなかったことはありがたいが、そのまま放っておくわけにもいかない。 玩具売り場の中にはぬいぐるみや合体ロボ、「クジしますツリー」などというふざけた玩具が山のように積まれている。 それにしても、「クジしますツリー」とはまたふざけた名前だ。要はおみくじを引けるクリスマスツリーなのだが、クリスマスとおみくじは全く違う宗教のものだと思うのだが。 そんな玩具売り場の中をしばらく歩いていると、玩具を選んでいる彼を見つけることができた。

さんざん私をせかしていたが、彼はまだ獲物を決めかねているようだ。 12月になる頃からテレビでは新製品のコマーシャルが増えていた。 それを見る度に、これがいい、だとか、やっぱりこれがほしい、と彼の望みはころころと変わっていった。 去年のように全部欲しいとまでは言わないものの、1つに絞り込むことは難しいようだ。 絞り込むことができないまま、決戦の日がやってきた。私を叩き起こして戦場にやってきたというのに彼はまだ迷っている。 他の子供達が次々と獲物を手にレジに向かっているのに、彼は1時間も売り場の中をぐるぐると回っているのだ。 叩き起こされた側としてはちょっと納得がいかないのだが。しかし愚痴を言っても仕方がない。

真剣に獲物を選ぶ彼を見ていると、ちょっとからかいたくなってきた。 代わりに選んであげようか、と声をかけ、彼がうろうろしている近くにある玩具を手当たり次第に彼に見せていく。 最初はゲームや合体ロボのような彼の気に入りそうなものを見せていたのだが、続けているうちについつい茶目っ気を出してしまう悪い癖が出てきてしまった。 可愛いお人形さんを見せたり、お化粧道具を見せたり、最後は隣の売り場から大きな犬のぬいぐるみをかついで持ってきたりしてしまった。 それにしても、わざわざあんな大きなぬいぐるみをかついで持ってくるというのは冷静に考えるとかなり恥ずかしい行為だった。

ちょっと反省し、そして彼も恥ずかしそうだったのでしばらく離れて待つことにする。 彼には、あせらなくていいからゆっくり決めなさい、と伝えておく。 いくらなんでももうそろそろ決まるだろうと期待しながら。

甘かった。まさかあれから3時間も迷いつづけるとは。 しかし、その甲斐あって満足できる買い物ができたようだ。大きな包みを抱えて満足そうな彼。 予想外に遅くなってしまったため、昼食を取って帰ることにする。彼女には買い物を済ませたこと、昼食を取って帰ることを電話で伝えておく。 彼は包みの中身が気になるようだ。開けていいかと何度も聞いてくる。私はその度に、家に帰ってからにしなさいと答えるのだが、彼は食事しながらもしきりに包みをさわったり中を覗いたりしている。

買い物が長引いたこと、そして駐車場から続く長い渋滞のせいで、家に帰り着いた頃には外はもう暗くなっていた。 早起きした上に歩き回って疲れたようで、彼は車の中で寝てしまった。 家に着いても起きないので、仕方なく彼をだっこしてそのまま布団まで運ぶ。 さすがに赤ん坊の頃のように軽くはなく、ほんの少しの距離を運んだだけで息が上がってしまった。 彼の横で休憩していると彼女がやってきた。座り込んでいる私を見てあきれたように、少しは運動しなさい、と言う。 確かにこのままでは体がもたない。しかも春にはさらに一人増えるのだ。せめてお前は手加減してくれよ、と、彼女のお腹に手をあてて頼んでおく。 ほんの数年前は彼がこのお腹の中に入っていたのだが、いつの間にやらこんなに大きくなっていた。だっこするのが大変なくらいに。

どうも今日は考えこむ事が多いようだが、車の中に彼のプレゼントを残していたことを思い出した。 あんなに楽しみにしていたプレゼントもまだ包装紙に包まれたままだ。 車の中から彼のプレゼントと、そして先週買っておいた彼女へのプレゼントを取り出す。

夕食は彼の大好物のハンバーグだった。 彼女は三人分作っていたのだが、彼はまったく起きようとしない。気持ちよさそうに眠っているので起こすのも悪い気がする。 残しておこうかとも思ったが、せっかくなので私が食べる。彼の分は明日私が作ることで勘弁してもらおう。 彼が何を買ったのか気になるようなので、食事をしながら、彼女に今日の出来事を話す。 ただ、大きいぬいぐるみを担いだ話はしなかった。犬好きの彼女にそんな話をしたら、何故買ってこないのかと怒られてしまう。

寝る前に、彼の枕もとに今日の戦利品を置いておく。 せめて、夢の中でサンタクロースに会えるように願いながら。そして、そのサンタクロースが私にも安眠というプレゼントを届けてくれるよう願いながら。 しかし、私にはプレゼントは届かないだろう。 きっと明日の早朝は、枕もとに置かれたプレゼントと共に彼が叩き起こしに来るはずだ。自分と一緒に遊べ、と。 そんなのもちょっと悪くない、と思いながら眠りに就くのだった。


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