就職して十年になる私ですが、それと同時に結婚しても十年になります。当時は「お前は阿呆か」と呆れる者あり、「へえ、それはおめでとう」と棒読みの祝福をくれる者あり、「考え直せ」と止めてくれる者ありと様々でした。まあね、貯金0からの結婚出産って真面目に考えたらやってらんないよね。一応私も電卓叩いて「どうにかこうにかならんこともないかもしれない」というレベルでしか見通しは立たなかった訳ですし。逆に言うと勝算皆無という事でもなかった訳ですが、それでも綱渡りには変わりません。

卒業即結婚、結婚即出産となったのは、所謂一つの「でき婚」というやつだからです。一部統計ではナウいヤング層で既に主流となっているそうではありますが、それでもあまり褒められたものではありません。俗に「でき婚は離婚しやすい」なんて言われてます。ただ、この俗説を裏付ける統計ってのが見当たらないんですよね。もともとでき婚に関する公式統計なんてものが存在しないんで、そこからさらに離婚についての統計となると全くデータがないのかもしれません。ちょっと調べてみても「私の周囲では」とか「そう言われています」とか、いまいち信憑性に欠ける話しか出てきません。そりゃ私も「でき婚だと離婚しやすいんじゃなかろうか」とは思っていますが。思ってはいますけど理由は様々だとも思いますけどね。「でき婚だから離婚した」なんて人たちは、多分普通に結婚したとしても離婚したんじゃないかと思います。

そんな訳で、「でき婚だけどまだ離婚してない」我々。最近は会話が少なくなってきました。と言っても「冷え切った夫婦関係」とか「仮面夫婦」とかの単語とは関係ありません。会話が少なくなった理由も、「喋らないでどれだけ意図が通じるか」という実験のようなものですし。

会話が無くなるのは主に深夜。子供たちが就寝し、大人たちは適当に羽を伸ばす時間帯です。私は基本的にPC前に引きこもり、奥さんはテレビ前のソファで本を読んだりテレビを見たり。で、小腹が空いてきた頃にお菓子の小袋を手に取り奥さんに見せてみる。以前だったら「食べる?」とか聞きましたし、「食べる」だの「いらない」だの返事が返ってきていました。しかし最近は言葉なし。私は袋を揺すって音を出すだけですし、奥さんはこっちを見るだけ。私は音を出すことで、これを一緒に食べるかどうか尋ねています。奥さんは奥さんで視線で返答してきます。すぐに目をそらせば「いらない」ですし、じっと見るようならば「食べる」です。なお、勢いよく手を伸ばしたときは「寄こせ」です。その時は私は別のお菓子を取りに戻らないといけません。しくしく。

現状では我々夫婦は何事もなく穏やかな日常を送っているのですが、他の人間もそう思ってくれているとは限りません。しばらく前、実家に用事があり帰省した時のことです。奥さんは仕事があったので私と子供たちだけで移動しました。んで、近所のスーパーでお買い物中の出来事です。たまたまそこに中学時代の同級生が通りかかりました。こいつと会うのもかれこれ十年ぶりくらいです。当たり障りのない挨拶から、聞かれて当然の話題に進んで行きました。

「そう言えば、お前、誰と結婚したんだっけ?」と聞かれたもんで「ああ、(奥さんの旧姓)だよ」と返します。私の中学時代の同級生という事は、それは即ち奥さんの中学時代の同級生でもあるのです。彼の耳には「同級生と結婚した」という事は届いていても、それが誰かという事までは届いていなかったのでしょう。ま、興味がなければそんなもんだよね。で、名前を告げると納得したような驚いたような反応をしてさらに一言。

「今も?」

待て。勝手に離婚させるな。今日この場にいないのはたまたま。た・ま・た・ま。偶然。奥さんは仕事なの。力説しました。そりゃ実家の近所で、私の両親付きで、さらに子供はいるのに奥さん抜きという光景だけ見ると、「離婚して実家に戻ってきた」と見られても仕方ないのかもしれません。しれませんが、それならそれで「奥さんは?」とか聞きようがあるでしょう。言外に「別れたの?」という意味を含んでいたとしても「別行動?」という意味を含ませているともとれる聞き方にすればいいじゃないですか。なんで離婚前提なんだ。やっぱ世間の目は「でき婚と離婚はセット販売」なのか。


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