仕事場で朝礼が行われるようになってから二年程が経過しました。朝礼といってもたまに連絡事項が通達されて、その後部署の中から担当者一名が出てきて小話、という程度です。スピーチ担当者は持ち回り。基本的には社員限定での持ち回りとなっており、居候の身である私に順番が回ってくる事はありません。まあ、一番最初に「スピーチしないか」と聞かれて「面倒くさいから嫌です」と答えたからなんでしょうが。ちなみに私と同じ会社に所属し、隣の部署に居候している同僚はちゃんと順番が回ってくるそうです。あの時はっきり拒否しなかったら、きっと今頃私にも当番が回ってきてたんでしょう。

スピーチといっても、皆が皆面白いネタを持っているわけでもありません。なんで、基本的には聞いたものは右から左へと流れていきます。時間の無駄だと思うんですが、それでも未だに続いています。そもそも何故始まったのかが分かりません。「なんか面白い事をやろう」とでもなったのでしょうか。それならそれで、「面白くないから終了」という決断をしてもいいと思うのです。

ただ、この時間が徹頭徹尾完全に無駄かと言うと、そうとも言い切れません。誰かの小話を聞きながら、「自分だったらこういうネタを披露する」とか「その話はこう料理できる」とか考えていますから。実際にそうやって話を膨らませて雑文のネタになることもありますし、今回はスピーチそのものが一回分のネタになっています。「二年で一回」というペースを考えると、割に合わないような気もしますが。

さて、新年度が始まり私の居候先にも新入社員がやってきました。私から見れば他社の人間であり、その殆どは今後も接点がないままとなるのでしょうけど。その彼らも朝礼に参加しているわけですが、スピーチとは別枠で一日一名ずつ自己紹介をやらされています。だいたい十名ほどの自己紹介を聞いてきたのですが、初日はともかく二日目以降は台本でもあるかのように型にはまったものとなっています。まずは自分の名前、出身地と出身校の紹介です。いや、これはいいんです。自分の名前は勿論、出身校や専攻はその人がどれほどの基礎知識を習得しているかという材料になります。問題は次。
「学生時代はなんとかかんとかというスポーツをやっていたので、体力には自信があります」
全員ではありませんが、だいたい八割くらいがこう言ってました。なんだそれ。この会社って、IT系とかいうアレじゃないのか。なんでそんな爽やかスポーツマンばっか入社してんの。しかも何故、揃いも揃って体力を売り込むんだ。結局、技術を売り込む新人は一人もいませんでした。それってどうよ。そりゃ、やる気とか意欲とかを前面に押し出すのはいいけど、それだけってなあ。

そんなコピペで済ませたような自己紹介を聞きながら、「じゃあ自分だったらどう言うか」という事を考えます。同じテンプレートを自分に当てはめたらどうなるか。こうなります。
「某社所属のcloudです。熊本県荒尾市出身、某高専卒です。」
この部分はどうにも弄れません。まあ、基本ですね。
「昔はサッカーをしていたので、体力には自信が」
ここからです。正確にはこの部分も、ですか。
「昔はサッカーをしていたのですが、膝を壊して辞めました。関節が弱いようで、アゴは顎関節症、腰は坐骨神経痛、右ひざは半月板損傷、左ひざはそれをかばって痛めています。」
いいぞ、満身創痍だ。
「その他、職業病の肩こりもあります。おまけに首もこるのですが、肩と首のこりが酷くなると持病である良性発作性頭位目眩症の発作が出ます。」
すごそうな病名を出して牽制しています。
「子供の頃から体力には全く自信が無いので、いつも『無理をしない』事を目標としています。」
実際のところ、我々の仕事は「楽をするために手間をかける」部分があるのでこの考えはあながち間違ってはいません。ちょっとの手間で最大の利益を得るように試行錯誤するのが我々の仕事です。
「新人の皆さんも体力に自信があるのはいい事ですが、無理をしすぎないようにしてください。」
素晴らしい。「新人を気遣ったスピーチ」の完成です。ちゃんとまとまりました。まあ、こんな事考えてても私にスピーチの順番が回ってくることはないので全く無駄なんですけどね。


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