年末に子供達を連れて、従兄弟の家に遊びに行ってきました。子供達は子供同士で遊ぶ横で、大人達は大人同士でダラダラと喋っています。話の流れの中で私の小学校、中学校時代の話になりました。私は小学校から中学校までサッカー部に所属していた、しかし誰も信じてくれない、以前は小学校の同級生であった奥さんですら信じてくれなかった、といった話です。ここで従兄弟の奥さんの目の色が変わりました。具体的には「小学校の同級生であった奥さん」といった辺りに。私の話が途切れるのを待って、物凄く期待した目をしながら私に尋ねてきます。「やっぱ、小学校の同級生って事は、昔からいろいろあったりしたんですか?」と。その質問は私にとって何度も行われたものです。そして私も何度も繰り返した回答を返します。「本当に、本当に申し訳ないんですけど、ちっとも全く少しも皆様が期待されているような事はございませんでした」と。

「小学校の同級生と結ばれる」。
自分の周囲を見渡してみても、この条件に該当する人はいません。ひょっとしたらいるのかもしれませんが、少なくとも私は知りません。友人達に関しても、結婚相手は職場の同僚だとかバイトの同僚だとか。大学時代からの付き合いというのは何組かいますが、じゃあ高校は、中学はとなると途端に数が激減します。今回私に尋ねてきた従兄弟達だって高校の同級生なんだそうですが、そんな人たちでも「小学校の同級生」という言葉にはある種の夢というか憧れというかそんなものが含まれているようです。ちなみに、極狭いサンプルに関して言うならば、私たちの小学校では卒業生約50人に対して結婚1組(我々)、中学校では卒業生約100人に対して結婚3組(我々含む)となっています。地元在住のやたら耳が早い友人の情報網に引っかかっていない以上、これ以降は増えていないのでしょう。母数に難がありますが、小学校同級生での結婚率は4%、中学校のそれでは6%となります。確かにそんじょそこらにいるほど多くは無さそうです。

「小学校の同級生と結ばれる」。
その事実を知った人は、ほぼ例外なく従兄弟の奥さんと同様の質問をしてきます。友人や同僚、親兄弟に親戚、果ては上司に至るまで聞いてこなかった人はいないんじゃなかったっけ。さすがに友人達はかつての私にそういう浮いた話が無かった事を知ってはいますが、それでも「実はこっそり小学生の頃にいい感じだったりしたんじゃないのか」くらいは聞いてきました。しかしながら、皆様の期待に応えられるようなエピソードは全くありません。そもそもの発端も「成人式後の同窓会でなんとなく意気投合したから」ですし。

「小学校の同級生と結ばれる」。
何度も同じ質問をされてきたわけですが、これは世の中の人々が何かを期待しているという事を意味しているのかもしれません。みんなが期待しているのであれば、それに応えるのが筋ではないでしょうか。「今まで隠していたけど、実は小学生の頃にこんなエピソードがあったんだ」とか言って適当な事をでっち上げるのも必要なのかもしれません。「サンタさんはいるんだよ」的な感じで。という事で、どのような「隠れたエピソード」を作ろうかと考えてみました。

しかしながら、普通に考えていくと私の頭では「小学校の同級生」ではなく「幼馴染」的なエピソードばかり湧き出てしまいます。まあ似たようなもんではあるので上手い事加工してなんとかしてみましょう。という事で考えてみましたが、おままごとで遊んでたとか、一緒に遊んでいたら冷やかされるとか、ちょっと想定年齢が低すぎではないかというようなものばかり。ならばと想定年齢を上げていくと、毎朝登校時に起こしに来るとか、その起こしに来た場で臨戦態勢なナニを見てしまうとか、その臨戦態勢を鎮めるためにむにゃもごもごとか。今までの人生で見かけた「幼馴染的エピソード」の出所が如実に現れています。少年漫画の枠を超えると途端にエロに入っていっちゃうんだなあ。

少年漫画では私の知識量に限界がある、かと言ってまさかエロ方面のエピソードを作り出すわけにもいかない。ここは少女漫画方面に活路を見出そうと奥さんに相談してみました。少女漫画業界ではどのような「幼馴染ネタ」が流通しているのだろうか、と。ところが聞いてみてびっくり。少女漫画業界には「幼馴染ネタ」というものはあまり一般的ではないそうではありませんか。やたら読書量が多いというわけではないものの、かと言ってやたら少ないというわけでもない奥さん。平均よりやや多目と考えた場合、そんな奥さんが「少女漫画界と幼馴染は食い合わせが悪い」と言ったとなるとこれは本当に幼馴染ネタはないものと考えていいでしょう。少なくとも主流ではない、と。おかしいなあ。「小学校の同級生」で食いついてきたのは老若男女の区別はなかったぞ。少女漫画界にはひょっとしたらまだ「幼馴染」という鉱脈が残っているのか、それともとっくの昔に掘り尽くされてすっからかんなのか。どちらか知りませんが、とにかく少女漫画方面に活路を見出すという私の作戦はものの見事に失敗です。

仕方がないので適当に考える事にしましょう。「小学校の同級生」という点を強調するのであれば、学校という枠組みの中で考えたほうが良いでしょう。オーソドックスなのは「同じ係を担当して、その時に仲良くなった」といった辺りでしょうか。では「飼育係を担当して一緒にウサギの世話をしているときに仲良くなった」といったエピソードにしてみましょう。これならば作業内容を説明する必要もありませんし、「ウサギと一緒に戯れてた」とか「ウサギの世話は大変だけど頑張った」等の聞き手が勝手に想像する部分も用意してあります。でっち上げる側も楽です。「夏休みは本当に大変でした」とか「ピョン太とピョン吉がやんちゃでした」とか適当な事を言っても納得してもらえそうです。という事で、我々夫婦の馴れ初めは「小学校の時の飼育係」に決定です。

(なお、念のため追記しておきますが、我々の小学校には当時「ウサギの飼育係」なんてものは存在しませんでした。)


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