週末の夕方。いつものように一番に食事を終え、特に何か目的があるわけでもないのにテレビのリモコンに手を伸ばします。「なんかニュースでもやってるかなあ」とチャンネルを変えていると、サッカーの試合が映りました。七月二十一日土曜日。その日はアジアカップ準々決勝の日本対オーストラリア戦が行われていました。「せっかくなんで地上波よりCSで見たいな」とケーブルテレビの番組表を調べますが、どうも放送対象外。仕方なく地上波に戻します。まだ試合は序盤戦。ソファによりかかって観戦体勢に入ろうとすると、「これ何?」と長男が聞いてきました。

長男はどうも「褒められて伸びる」タイプのようです。通知表の所見欄には「算数のプリントをクラスで一番に全問正解したときに褒めたら、それ以降算数大好き少年になった(意訳)」とありました。もともとゲームのおかげで単純な足し引きには慣れています。「90-10」を聞いても「分からない」と答えますが、「HP90のゴウカザルが10ダメージ受けたら残りHPはいくつでしょう」という問いには自信満々に「80!」と答えてきます。ポケモンに直さないと分からないようですが、できないよりはできるほうが良いに決まっています。

その長男がサッカーに興味を持つきっかけとなったのは、保育園の頃に体育の授業の一環として行われたサッカーの試合でした。何の因果かキーパーなんてポジションを選んだ長男はシュートをきっちり止めて大役を果し、そのおかげで試合に勝ったそうです。先生からも褒められた長男は、その後も公園にボールを持って行っては「キーパーするからシュートしてみて」と言ってきました。軽く蹴ってやると「もっと真面目にシュートして」と怒られたり。いや、本気で蹴ったらそこの金網越えて駐車場に行っちゃうし、そうでなければお前が怪我するし。しかしこう、普通の子供というのは「シュートしたい」とか「ドリブルで攻めたい」とか思うもんじゃないんですかね。なんでまたキーパーなんて気に入っちゃったんでしょうか。もっとも、二十年前に意気揚々と守備的なポジションを選んでいた親父が言えた義理ではありませんが。

そんなわけでサッカーにも興味をもった長男。考えてみればプロの試合を見せるのは今日が初めてです。ボールが右へ左へと飛び交う様子に目を輝かせています。「青い服が日本で、黄色い服がオーストラリアで、今は日本を応援してるよ」と言い、ご飯を食べたらテレビ見ていいよと付け加えました。次男は疲れたのかとっととお休み中ですし、奥さんは奥さんでサッカーに興味がないので読書中です。邪魔をされずに二人で観戦する事となりました。

長男にとってはサッカーという競技は「手を使わずに相手のゴールにシュートすれば良い」という程度の知識しか持たないようです。「何で頭でボールを飛ばすの?」なんて聞いてくるくらいですからヘディングの概念もないようです。私が同じくらいの年齢の頃はちょうど「キャプテン翼」の連載時期、そしてアニメの放送時期でした。その影響で路地裏に集まってはサッカーをする事も多かったので、基本的なルールに止まらずスローインやコーナーキックに関しても理解していました。さすがに道幅二メートルもない路地裏でコーナーキックのルールを適用するには無理があるとも思いますが、上から下まで五歳ほどの年齢差を気にすることなく遊んでいました。今現在、子供向けの漫画なりアニメなりにサッカーを題材にしたものがあるかどうかは知りません。あるんだとしたらもうちょっとルールを知っているんじゃないかと思うので、おそらくないのでしょう。せっかくなので、基本的なルールも含め解説しながら観戦します。「コーナーキックは相手のゴールに近いから得点のチャンス」とか、「前にボールを蹴らずに後ろに蹴るのは、相手にボールを取られないようにするため」とか、フリーキックのシーンでは「相手がズルしたから、こっちが蹴るチャンス」なんて説明もしました。あと、「相手をグーで殴ったらもう試合に出られない」とか。

子供にとってはもっとシュートが飛び交うような展開の方が面白かったのではないかとも思いますが、それでもじっと集中して見ています。ボールを取られたら声を上げ、シュートを打ったら声を上げ。とうとう二人揃って「「ああああっ」」と大声を上げてしまいました。ええ、それはもう見事なハモリ具合で。すると横から我々を観戦していた奥さんからため息交じりの声が聞こえてきました。
「今でこうなんだから、もっと大きくなったら、二人じゃなく三人になったら、もっと喧しくなるのかな」
なるんじゃないかな。多分。ま、ちょっとは覚悟しておけ。いつもは一人で観戦するのですが、二人で、親子での観戦も悪くありません。いずれは「酒を飲みながら選挙の開票番組を観戦」にも付き合ってくれるのでしょうか。


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