私を悩ませるめまいは、正確には「良性発作性頭位目眩症」というものらしいです。りょーせいほっさせいとーいめまいしょー。おお、なんかよくわかりませんがとても凄そうです。特に「性」という文字が二つも入っている辺りが高得点です。なんかこう、「ごっつい病気」という香りがします。しかし、「良性」という言葉は「はったりを利かせたい」という観点から見るとやや減点材料と思えます。

そもそも「良性発作性頭位目眩症」とは何なのか。命に別状が無いから「良性」なんだそうです。で、突然、発作的に症状に襲われるから「発作性」。頭の部分の問題だから「頭位」で、主な症状より「目眩症」となります。で、それらを全部まとめて「良性発作性頭位目眩症」。「死ぬほどではない眩暈が突然やって来て難儀する病気」を重病っぽく言うとこうなります。

しかし、いくら「死なないから良性」とか言われても、症状のピーク時はそれこそ死にそうな思いをする羽目になります。世の中に延々とぐるぐる回り続けて目を回して死んだ人というのは、おそらくいないでしょう。目を回して倒れこんだ際に頭をぶつけるなどして間接的に亡くなった人はいるかもしれません。この症状も同様です。眩暈そのものではおそらく死にません。が、倒れこんで頭をぶつけたら死ねます。極端な例では、自動車の運転中などに発作が起きたら動く凶器のできあがりです。真っ直ぐ運転できるとは思えません。

先日二度目の発作に襲われました。土曜日の朝からぐらんぐらん。日曜もやっぱりげーげー。月曜になってもまだくらんくらん。で、病院まで行って薬を貰ってようやく納まりました。その間、丸々三日間回り続ける世界の中で生きておりました。立ったり座ったりしている時に回る分には「そのまま横になる」という対処策があります。が、横になっているときにさらに回られるとどうしようもありません。寝るしかありません。

しかし寝るのも一苦労です。通常は睡眠中に無意識のうちに寝返りを打ちます。無意識でなくても、寝付けない場合なんかは寝返りを打ったりします。が、発作中は寝返りを打てません。体勢を変えると、こう、頭の中で落ち着いていた血液がぐるーんと動いて、ついでにぐるーんと症状が出てきます。ああ、あくまでイメージですよ。人間の平衡感覚は耳の中にある耳石というものが関係しているので、血がどう動こうが関係ありません。関係ないのですが、こっちはいかに症状を起こさないか、どうすれば人並みの生活を送る事ができるかで必死です。「こうするとよろしくない」というものを、身をもって学習していかなければなりません。本来ならば、同一の結果を導き出す事ができるか再現実験をしなければなりませんが、とてもそんな余裕はありません。「こうするとアウトっぽいから二度とこういう事はやらねえ」となります。寝た子は起こさないのが一番です。君子は危うきに近寄らないのが無難なのです。

で、学習したうちの一つが「寝返りはやめとこう」です。しかし、半日以上完全に同じ体勢で横になるというもの難しい話です。で、妥協して「寝返りは慎重に、ゆっくりと、時間をかけて行う」事にしました。完全に発症を防ぐ事ができるわけではありませんが、それでも勢いよく寝返りを打つよりはなんぼかマシです。こうする事で大分楽になれたのですが、それでも全く身動きをしていなくても症状がやって来る事があります。幸い、考える事はできるので必死に頭を働かせます。頭を楽にするために頭を働かせるというのも妙な話ですが、そもそも頭が原因なんで責任とってもらわないと困ります。このままでは歩く事さえままならないのですから。さっき発作が起きたけど、その直前に俺は一体何をしていたのだろうか。回る意識の中で一つの仮定が思い浮かびました。

「無くて七癖、有って四十八癖」と申します。人間、妙な癖の一つや二つあるものです。私の妙な癖の一つに「耳から空気を抜く」というものがあります。あの、「トンネルに入ると耳がキーンとなる」症状の改善策としてよく言われるものです。私は寝る前なんかによく「耳から空気を抜く」行為をします。いや、意識的にやっているわけではないんです。もう、完全に無意識。つい先程、発作がやって来る直前にも空気を抜いていたような気が。で、この症状は耳の中の石がどうこうで、私がやっていた行為は耳の中の気圧がどうこうで。ひょっとして、これはとてもよろしくない行為なのではないだろうか、となりました。頑張って、意識して空気を抜かないようにすると、それが原因なのかどうかは分かりませんが、発作がやってきにくくなりました。少なくとも、先程までのように「何もしていないのにぐるんぐるん」とはなりません。ああ、勿論再現実験はしませんよ。とてもそんな余力はありません。

原因不明だった発作の原因を掴む事ができました。勿論、症状が完全に治まったわけではありません。寝返りを打てば、相変わらず意識は回ります。ですが、こちらは因果関係が分かっています。回らせたくなければ、動かなければいいのです。そして、耳から空気を抜かなければいいのです。ようやく安心して眠りに付く事ができそうです。

翌朝。決して爽やかではありませんが、それでも起き上がる事ができます。ああ、世界が真っ直ぐだ。素晴らしい。まだ頭が軽く寝ぼけているのでちょっと気合を入れて頭を……

「無くて七癖、有って四十八癖」。今の今まで全く気がつきませんでしたが、私は伸びをする際に「後頭部に力を入れる」癖があるようです。後頭部には血がたまっていた訳でして、そこに力を入れると今まで落ち着いていた平衡感覚がぐるんぐるんぐるん。ああああ、回る、また世界が回る。何故こんな癖が、何故こんな時に、何故、ああ、ぐる、嗚呼。


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