「テトリス」というゲームがあります。所謂「落ち物系」と言われるタイプのゲームです。様々なプラットフォームに移植されたため、一度ならずプレイした方もいることでしょう。その中毒性の高さは、ソ連の科学者が開発したという経緯もあり「東側諸国による西側諸国への電子的攻撃の一種である」という研究結果も発表されています。(民明書房刊『猿とゲーム脳 ハラショー・ペレストロイカ』より)「違う、本当の電子的攻撃は『ゴルビーのパイプライン』だ」との意見もあるようですが、少数派のようです。

その後産まれた「落ち物系」と言われるジャンルに関しては、それこそ玉石混合でした。「ぷよぷよ」や「コラムス」のように今でもゲーム史にその名を残す物もあれば、発売翌年には既に忘れ去られたような物もあります。「ハットリス」なんて、どれくらいの人がプレイしたんでしょうか。作者はテトリスと同じなのに。

この「テトリス」、今までに二度ほどブームを作り上げた事がありました。一度目はゲームセンターで、そしてゲームボーイ(GB)にてプレイできるようになった八十年代末。「湾岸戦争で最前線に配備された米軍の兵士にGB本体ごと支給された」とか、「その支給されたGBは爆撃されてもまだプレイできた」等の伝説も生み出しました。二度目は九十年代の半ば頃。キーホルダー程の大きさで専用の小型携帯ゲーム機に内蔵されて販売された頃です。あのサイズが授業中の暇つぶしに最適でして、当時は教室のあちこちで手元を見たまま指先だけ慌しく動かす人間が多数いました。勿論、そのまま先生に見つかって没収される事も多々ありました。しかし、「授業中にゲームボーイウォーズにてGB本体回しプレイ」よりはハードルが低かったため、そしてGB本体没収の刑よりは経済的損害も少なかったため、没収されても懲りずに続ける豪の者もいました。

只今、個人的に三度目のブームが来ております。原因はNintendoDSで発売されている「テトリスDS」。評判を聞き、本体を持っていないのに買ってきてしまいました。仕方ないので子供たちが寝静まった後、本体だけ借りてプレイしています。ほぼ十年ぶりのテトリスだったのですが、昔と今では細かい部分でルールや仕様の変更が行われていました。「次のブロックだけでなく、六つくらい先のブロックまで見える」とか、「上ボタンを押すと一発でブロックが着地(Hard Drop)」、さらには「一つだけならばブロックを保管して都合がいいときに出せる(Hold)」なんて機能があります。特にHoldは、上手く使うとテトリス二連発なんて事も簡単にできます。かつてよく見る事があった「棒が来ない、棒が来ない、ああ、上が詰まった」という事態を極力避ける事もできますし、「このブロックは都合が悪いから後で積もう」と守備的に使う事もできます。

そして、それらの機能を効果的に、そして全力で使う事ができる「Wi-Fi対戦」というプレイモードがあります。平たく言えば「無線LANの電波に乗っけて見知らぬ誰かとオンライン対戦」な機能です。今までのテトリスというと、基本的には自分との闘いでした。どれだけ得点を稼げるか、どれだけラインを消す事ができるか、そしてどれだけスピードに付いていけるか。GB版のテトリスにも対戦機能はありましたが、本体二つにソフト二つ、さらに通信ケーブルまでが揃う事は殆どありませんでした。しかし、Wi-Fi機能を使うと自分の側の準備が整えばそれでいいのです。サーバに接続して待っていれば、後は勝手にサーバ側でマッチングして対戦が始まります。「深夜に四人対戦」とかだとなかなか人が集まりませんが、「二人対戦」くらいだと結構簡単に勝負が始まります。寝転がっていようが、便所で頑張っていようが、電波さえ届けば対戦可能です。素晴らしい。しかも無料です。素晴らしい。昨夜は同じ人と連続三十戦させていただきました。眠い。

そんなお手軽簡単対人対戦ですが、困った事もあります。対戦相手を探すのに結構時間がかかるため、手持ち無沙汰になる時間帯があります。お手軽だということもあり、そんな隙をついてついつい晩酌の準備をしてしまうと。こう、ね。いい感じでほろ酔い気分になっちゃったりすると、一マスずれるとか三秒ほど意識が飛ぶとか、そんな事が起きます。目の前に対戦相手がいるとそれなりに会話もあるでしょうが、困った事に相手はネットの彼方。ゲーム中は「しまった」とか「あっ」とかそういう短いつぶやき、勝負が付いたら再戦を選んで酒を一口。それがずっと続くもんですから。終盤はぐだぐだで大変です。大変だけどなかなかやめられません。困ったものです。


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