「じゅる耳は優性遺伝」だと信じていた私ですが、家族の中で私以外は乾燥耳垢という事実の前に打ちのめされそうです。いや、実家では父以外が全員じゅる耳という事実をもとに結論付けたのですが。で、それとは別に家族を見て「これは優性遺伝だろう」と勝手に考えているのが「皮膚の強さ」です。

私は比較的皮膚が強いほうでして、例えば風呂ではナイロンタオルでごしごしと遠慮なく洗います。それを見た妻は、まるで物の怪でも見るような目をしてくるのですが、私にしてみればこれは十年以上続く日常なのです。「私がそんな事をしたら肌がボロボロになる」と言われても、そうしないとお肌がべとついてしまうので仕方ないのです。

ナイロンタオル使用を「信じられない」の一言で拒否する妻は、ナイロンタオルどころか普通のタオルも使用しません。まあ、食器を洗うにもゴム手袋が欠かせないくらいの肌ですし。食洗機を使っている今でも、ちょっと気を抜くとすぐに手が荒れているようです。

で、この「+」と「−」を足し合わせて生まれた子供たちは。長男は軽度の乾燥肌です。夏場はそれほど問題ありませんが、冬になると痒くて肌を掻き毟っているようです。そのため、風呂上りにはワセリンなどの保湿用の薬を塗る必要があります。昔はもうちょっと皮膚が弱かったのですが、だんだん強くなっているようです。次男の方はと言うと、こちらはえらく皮膚が弱いようで。冬は勿論、夏場もしょっちゅう肌を掻き毟っております。冬は乾燥して掻き毟り、夏は汗疹との相乗効果で掻き毟り、といった具合に年中掻き毟っております。「+」と「−」を足したんだから「0」になればいいのですが、そう上手くはいかないようで。

で、夏も冬も薬が欠かせない三人を横目で見つつ、私はそういう痒みとは縁のない日々を送っておりました。虫刺されならともかく、肌荒れは本当に縁がないのです。今年はクールビズとやらの影響で仕事場の空調が制限され、そのおかげで首筋に汗疹のようなものができましたがせいぜいその程度。子供たちは肌荒れ対策で薬を塗り、妻は手荒れ対策で薬を塗ってからさらに包帯を巻き、私は汗疹対策で首にタオルを巻きつけて眠る。三者三様ならぬ四者三様の日常でした。

そんな夏のある日。盆前に最後の海水浴、という事で近所の海に遊びに行きました。が、クラゲが大量発生していたようで、海水浴客は皆体のあちこちを刺されていました。元気な子供たちも、水着のお姉ちゃんも、皆真っ赤になっています。それくらい刺されています。私達も、「今日は海水浴は無理」という結論に達し、結局その日は殆ど海に入らないまま。しかし、帰ろうにも子供たちは砂浜から動きやしない、という状況でした。

子供たちが勝手に遊んでいるならば、それはそれでいいのですが、私にはできるだけ早く帰宅したい事情がありました。その日、海に来てすぐ、まだ状況を把握していない段階で、海に入ったときの事。「今日は妙にちくちくするな」程度だったんですよ。で、水中から子供たちに接近しようと、海に潜り平泳ぎのような格好で手を動かした時。私の左腕に激痛が走りました。痛い、というか、熱い。よく見ると腕に糸くずのようなものがくっついています。どうやらクラゲの一部だったようで。勢いよく腕を動かしたところにいらっしゃったようで、見事なカウンターを喰らってしまいました。

その一撃で私はリタイア。結局家族全員で砂浜まで戻る事になりました。で、私の腕は徐々に腫れてきています。ええ、もう、そりゃ、見事なまでにぷっくりと。ミミズ腫れのような状態です。とっとと帰って消毒なりなんなりしたいのですが、子供たちは動きません。腫れが徐々に引いてきた頃、ようやく帰る事になりました。

帰宅して、とりあえず消毒。調べてみると、「クラゲに刺されたらすぐに酢をかける事」なんてありましたが、刺されてからかれこれ数時間が経過した今ではやるだけ無駄でしょう。まあ、消毒してたら酷い事にはなるまいて、と軽く考えていたら、数日後には化膿してきました。あれですよ。汁が出てきてるわけですよ。ちょっとかさぶたを剥がそうとしただけですが、後から後から出てくるんですよ。これはまずい、と妻の手を借り化膿止めを塗り、ガーゼを絆創膏で止めて回復を待つ事にしました。

待つ事にしたのはいいんですが、これが痒い。いや、傷口も痒いんですけど、さすがにそこは掻き毟る事はできません。それをやると余計傷が酷くなります。それくらいは私でも分かります。問題は絆創膏。貼ったところが痒いんです。かぶれてます。絆創膏負けです。

ええ、そりゃもう、妻に笑われましたとも。「肌荒れや乾燥肌とは縁がないのに絆創膏に負けるなんて」と。そう言えば、肌荒れや乾燥肌と長いお付き合いの妻は絆創膏負けしたとは言いません。ひょんな事から「子供たちは『+』と『−』の足し算じゃなくて『−』と『−』の足し算だったのではないか」と考える事となりました。「俺、『+』と言えるほどには肌は強くないんじゃないだろうか」とも。

この出来事から二週間ほど後、「もう海にはいけないからプールに行こう」と出かけた先で塩素負けして肩や腹、背中を真っ赤にして笑われる私がいましたが、それはまた別の話。


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