昔は「生えてくる頃には親はもう亡くなっている」という事でそういう名になっったらしい親不知。平均寿命が延びた昨今では親どころか祖父母が知ってしまうような状態です。さすがに曽祖父母までも知っているという人は少ないと思いますが。

どうも私の身体は、関節に問題があるようです。持病を抱えている個所だけでも膝(右膝半月板損傷)、腰(坐骨神経痛)、肩(慢性的な肩凝り)と、油でも切れてるんじゃないかと思うような状態です。で、この三ヶ所の他にも顎関節症を患っている顎があります。

顎関節症。簡単に言うと「口を開こうとすると顎が『かこん』と言う」という症状です。酷い時はその音が出るたび、つまり口を開ける度に痛みが走ります。私の場合はもう落ち着いているので特に大きな痛みはないのですが、酷い時は大変でした。口が開けられないと言っても角度は勢いを調整すればある程度までは開くのですが、この場合妙な開き方になってしまいます。私の症状は主に右側に出ているので下顎を左側にずらしながら、となるのですが、正面から見れば当然変な顔になるわけでして。結局「かっこんかっこん」言いながらも普通に開けざるを得ません。

この顎関節症の原因、詳しい事は分かりませんが思い当たるものはあります。私は生まれつき下顎が小さく、また歯の噛み合わせもおかしかったので歯の矯正治療をしていた時期がありました。ひょっとしてその時顎に負担をかけたせいではないかと思うのです。

矯正治療と言っても、単純に歯並びを良くするようなものではありませんでした。通常、人の歯は口を閉じた場合に下の歯よりも上の歯が前にきます。しかし幼少時の私の場合は、上の歯よりも下の歯が前にきていたのです。この治療、そしてついでに歯並びもよくしておこうか、というものでした。小学生の頃から中学生になるくらいまで治療を続けた結果、ようやく人並みの噛み合わせを手に入れたのですが、治療に行かなくなってしばらくしてから反作用が表に出てきました。

下顎が小さい。これはすなわち、永久歯全てが生えてくるには物理的な面積が不足していると言う事です。気が付けば前歯が一本正常な並びから外れ、後ろの方に移動してしまいました。左右からの圧力に負けたような格好です。実際、その一本をもとの場所に戻そうにも、その両側の歯が影響してしまうので不可能なのです。また、この移動によって非常に面倒な事態にもなってしまいました。正常な歯並びではないおかげで、歯磨きが困難になってしまったのです。歯間ブラシも効果が無い、並みの歯ブラシじゃ細かいところに届かない。結果として、虫歯や歯石の温床になってしまいました。

そんなわけで、数年に一度は歯石取りに行かなければいけないのです。そろそろ行かなきゃいけないなと思っていたのですが、タイミングよくというかなんというか昔詰めた銀歯が取れてしまったのでその治療がてら歯のメンテナンスもやってもらう事にします。とりあえずはレントゲンを撮ってもらって治療方針を決めます。

さて、目の前には撮影結果があります。いくつか気になるものが写っていたので後で聞こうと思っていたのですが、治療の合間に向こうから話が始まりました。

「ここ。左上と左下の親不知は普通に生えてきてますね」
ああ、顔を出したら抜かなきゃいけないって言われてるんですよね。
「痛みが無いならばまだ抜かなくてもいいですよ」
そうですか。季節の変わり目なんかは痛むんですけどね。
「それから右下」
はいはい。
「こちらは真横に生えてますね」
真横ですね。見事に。
「痛みが無いならそのままにしておきますけど大丈夫ですか」
こっちは本当に何もないです。
「じゃあ、もうちょっと様子を見ましょう。これ以上この歯が伸びるようだとおそらく他の歯が痛くなると思うので注意しておいてください」
はーい。
「で、問題は右上の親不知なんですけど」
問題なんですか。
「どうも先天的に右上の親不知は存在しないようですね」
これ、『写ってない』とか『生えてない』じゃなくて『存在しない』なんですか。
「ないですね」

いや、「親知らずが生えたら『絶対に』抜かなきゃいけない」と言われている以上痛みの根源となり得るものが存在しないのはいい事なんですが、「最初から存在しない」って、そんな頻繁にあることなのでしょうか。検索してみようにも、「親不知抜歯の是非」とか「親不知を抜いたから痛くて痛くて」とか、そんな話しかありません。説明受けたときに聞いておけばよかったな。


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