あまり大声で言う事でもないんですが、他人の顔を覚えるのが苦手です。今の住居に引っ越してかれこれ三年になりますが、近所の方々の顔と名前が一致しません。さすがに隣の家の人くらいはわかりますが、去年引越して来た向かいの家の人となると、表札を見て「ああ、○○さんっていうんだ」となる始末。家から三分ほど歩いた辺りの家になるとさっぱり分かりません。

お仕事でもその才をいかんなく発揮しています。「同じプロジェクトのメンバーであり毎日顔を合わせる」というのならともかく、「同じプロジェクトだけど別の場所で仕事してて一ヶ月ぶりにこんにちは」なんて人だとさっぱり分かりません。「一ヶ月ぶり」が「一週間ぶり」であってもちゃんと憶えていられる自信はありません。なんと言いますか、営業職にはとても向かないなと思います。比較的引きこもっていられるような職種でよかったな、と。

仕事でもどうかと思いますが、これがプライベートなお付き合いだとさらに困った事になりまして。具体的には相方の友人達。ええ、さっぱりです。地元からある程度離れて生活していて、帰省するのは数ヶ月に一度。そんでもって、タイミングが合わないと殆どの人たちとはろくにお会いする事もありません。そんな状況でどうやって顔を覚えろと。いや、最初から覚える気がない私にも問題はあるのですが。

私の側の「学生時代の友人」となると、その大半が中学生時代からの付き合いです。ごく一部が高専時代の友人となりますが、比率としてはごく僅か。つまり、私の友人の大部分は小中学生の同級生である相方にも面識がある面々なのです。それに対して相方の「学生時代の友人」となると、高校時代の友人だのバイト先の友人だのといった具合で、私が面識があるような人物が少ないようです。

先日帰省した時の事。ちょっとした用事で本屋に行きました。突然電車で移動する必要があったため、時間を潰すために何か買っていこうと思いまして。んで、品物を持ってレジまで行ったところ。

「ああっ」
はい?
「お久しぶりです。憶えてますか?」
ふへ?

誰っすか?や、本気で。脳内では「同年代くらいのよく知らないお姉ちゃん -> おそらく相方の友人 -> 愛想よくしなければ」という結論に達しはしたものの、適当な愛想笑いだけでその場を凌ぐ事はできず「顔なんざさっぱり覚えてない」という事がばれてしまいました。相方に聞いてみたところ、「ああ、あそこだったら○○ちゃんがバイトしてたよ」という話だったので、どうも相方の友人という事は間違いが無いようで。しかし、こっちはさっぱり忘れてるのに、なんで向こうはちゃんと憶えてられるんでしょうか。年に一回も会ってない他人の旦那なんて普通憶えてるもんなんでしょうか。

まあ、なんだ。今度そういう場面に遭遇してしまったときにはちゃんと受け答えができる程度にはしなければいけないでしょう。という事で、今度はこう切り返してみます。
「いやあ、綺麗になったから全然気付かなかったよ」
って、まるでナンパでもしてるみたいですな。そんな切り返し方を考えるくらいなら、顔と名前を一致させる努力をした方がいいと思われるかもしれませんが、それはもうあきらめました。

だって、ねえ。相方からは「○○ちゃん」と言われたし、その○○ちゃんからも「○○です」と言われたんですが。今現在、なんという名前だったか全然憶えてないんです。仮名としての「○○ちゃん」ではなく、憶えてないから「○○ちゃん」なんです。そんな鳥頭じゃ、努力しても無駄というものです。ごめんなさい、○○ちゃん。私はきっと今年も来年もあなたの事を「……誰?」と聞くと思います。


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